2020年11月13日
建設業界は長きに渡り人手不足の波に揉まれ続けており、実際に現場で作業を行う作業員や工事全体を把握して管理する施工管理者が不足し、非常に深刻な状態となっています。
人手不足であるならば、給料を上げて募集をすれば良いと思われますが、それでも人材がなかなか集まらないのが現状です。このままでは建設コストは非常に高くなり、次世代への技術の継承もままなりません。
そこで本記事では、建設需要があるにも関わらず建設業界に人材が集まらない原因と、施工管理技士の現状や今後について詳しく解説していきます。
建設業界の人手不足はどのような要因で始まったのでしょうか。具体的には次の2つの理由が大きな原因だと言われています。
3Kとは、「きつい」「汚い」「危険」の頭文字を指します。
他業界では週休2日制が定着してきている世の中で、建設業界ではなかなか定着していないのが現状です。建設業界の休みといえば、基本的に盆と正月と日曜日だけという場合が多く、祝日も現場は開いています。
また、現場で作業をしていると泥汚れや油汚れは日常茶飯時であり、高所作業や重機の近くで作業をするため危険とも隣り合わせです。このように、3Kの要素となる状況が建設業界に定着したことから、1995年は64万9,000人だった20歳から24歳までの建設業界入職者数が、2010年の調査では15万5,000人と、約7割も減少していることが分かっています。
高齢化の進行や団塊世代の大量退職などにより、現在多くの業界が若者の獲得に力を入れています。
しかし、建設業界に根付いている上記のようなイメージや、業界自体の古い体質と若者の新しい価値観が合わないことなどが原因で若い世代が建設業界に定着しにくくなり、人手不足を引き起こしていると言えるでしょう。
リーマン・ショックとは、今から10年程前にアメリカのリーマン・ブラザーズという会社の経営破綻から始まった世界規模の金融危機です。当時日本でも多大な影響を受けたことにより日本経済が大きく落ち込み、各企業では新たな設備投資を行うことができなかったことから建設需要は大幅に減少しました。
現場がなくなってしまうと一番に困るのは、作業員や職人の方々です。現場が無いと収入が断たれてしまうため、多くの作業員や職人が建設業界から離れ、リーマン・ショックが過ぎ去りアベノミクスによって公共事業が増えた後も、多くの方は建設業界には戻りませんでした。
その結果、景気が徐々に回復し工事現場が増えても、これまで建設業界で働いていた人員の多くが戻らなかったことにより、建設業界は現在でも人手不足の状態が続いています。
リーマン・ショック以降は、景気の回復や地震災害の復興事業、2020年に開催を予定していた東京オリンピックの施設事業や、それに伴う都市部の再開発といった工事が多くなりました。
施工管理技士の受験資格には一定の実務経験が必要なため建設業に就いてすぐに施工管理技士になれる訳ではありませんが、公共事業や大型工事などでは法律により施工管理技士を配置することが義務付けられているため、建設需要が増えた現在、施工管理技士は工事現場を多く抱える大手企業などから特に必要とされる人材となっています。
高い賃金で施工管理技士を募集している企業も多く、平均収入も一般企業よりやや高いラインを推移しています。特に施工管理経験者は即戦力で働けるため企業にとっては大変貴重な存在であり、年代問わず高収入で雇い入れる企業も多くあります。
また、これから施工管理者としてキャリアを積んでいこうと考える若手の施工管理技士資格保有者も今後の企業にとって極めて必要な存在なので、全体的に高収入での求人が多くなっている傾向にあります。
今後も、建設需要は増加していくと予想されています。
高度経済成長期に建てられた建造物の耐用年数が寿命に近づくため、地方都市を含む都市部の再開発は今後も続きます。それに伴い、ライフラインの撤去工事や新設工事も増えるので、施工管理技士の業務はますます増えるものと考えられます。
また、震災復興事業もいまだに終わっていないのが現状である中、東日本大震災後も熊本地震や各地で起こる豪雨災害など、あらゆる災害が現在も続いています。
堤防や護岸工事と言った防災事業は計画から着工まで多くの時間が必要であるのに対し、その間も災害は待ったなしで襲ってくるため、防災設備の新設工事や改修工事は今後もしばらくは続くと言えるでしょう。
このような事業では必ず施工管理技士の配置が必要となるため、大都市や地方に関わらず今後も施工管理技士の需要は高くなると考えられるでしょう。
施工管理技士は今後も高い需要が見込め、建設業界にとって極めて重要な人材と言えますが、高齢化が進んでおり、今後は若手の育成が課題のひとつとなっています。
施工管理技士の資格取得には一定の実務経験が必要となるため、学校を卒業後すぐに試験を受けて資格を取得することはできません。そのため、多くの受験者は仕事をしながら受験勉強をすることとなります。
また、国家資格であることから厳正な資格審査も必要となるため、受験がしにくく合格率も低い国家試験のひとつとなっていました。
このように、受けづらい試験や若手の育成が国家的な課題となっていたことから、平成27年度の施工管理技士の試験から試験内容の見直しが行われたため、一部の試験では実務経験日数の緩和などが適用され、以前よりも受験しやすい試験となりました。
試験内容の改定後は、2級資格取得後に一定の実務経験を積めば1級試験を受験する資格が得られるようになったため、以前に比べて若い世代の資格取得が容易になりました。
これにより、若手施工管理者の確保と育成強化に少しでもつなげることができるのではないかと期待されています。
このように、建設業界の人材不足はさまざまな原因により長年の課題であり、非常に深刻な問題となっています。
また、現在は東京オリンピックだけでなく、リニア新幹線開通工事や高速道路大規模リニューアルなど大型工事も控えていることから建設工事数は増加傾向にあるため、一刻も早い人材の確保が課題となっています。
そのためにも、未だ建設業界に残っている悪いイメージの払拭や、働く人の待遇改善などが急務と言えるでしょう。