施主とは何か?建設業初心者のための基本知識と実践ガイド
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施主とは何か?建設業初心者のための基本知識と実践ガイド

2025年7月2日

「施主」は、建物が建つ際に欠かせない存在です。とはいえ、建設業を始めたばかりの人や初めて家を建てる人にとっては、馴染みのない言葉でもあるでしょう。
この記事では、施主の用語の意味と共に、間違えやすい用語や施主の役割の重要性、施主として成功するためのポイントをまとめました。
主に施主側の視点ではありますが、建設業に携わる側としてもお客様を知るうえで役立つ情報となりますので、ぜひお役立てください。



 

施主とは?基本的な定義とその役割

「施主」という用語は、建築や不動産に携わる中で度々登場する用語です。読み方は「せしゅ」で、建築用語に限らず、「僧や寺に物を施す人」や「葬式や法事を営む当主」の意味も併せ持っています。一般的には、お葬式や法事の当主としての意味をイメージすることもあるでしょう。ここでは、建築・不動産用語としての「施主」について、改めて定義や役割などを解説します。

 

施主の定義と由来

建築・不動産用語としての「施主」は、建築主のことを意味しており、建築の工事を行うことを依頼する人または団体のことです。施主という言葉自体は、法律や契約書などの改まった場面ではあまり使われず、慣用的に用いられています。建築主や発注者、注文主、クライアント、建主(たてぬし)などの言葉はどれも、施主と同じ意味です。
建築・不動産用語に施主が使われるようになった由来は、「僧や寺に物を施す人」の言葉の意味と関連があり、報酬を与えてくれることに感謝した職人達が建主のことを「施主様」と呼んだことがはじまりといわれています。工事を依頼される側から見ると、施主はお客様にあたりますが、お客様ではなく「お施主様」や「施主様」と呼ぶことが多いでしょう。

 

施主の役割と責任

建物が建つときには、その建物を建てたいという主人公やプロデューサーのような存在が必要です。施主はその役割を担っています。施主は、個人の場合もあれば、法人や団体の場合もありますが、いずれの場合も建築工事を依頼したらそれで終了ではなく、無事に建物が完成する最後まで責任を持って取り組みます。
施主の役割はさまざまにあり 、どのような建物を建てるのかを決めたら、設計者や工事監理者の選任や、施工業者を決めて工事請負契約を結ぶことを手順を追って行います。そして、工事が始まった後も施主による検査が必要です。
施主が役割と責任を果たす過程では、予算を立てて資金を調達し、イメージがしっかりと伝わるように工夫する、不明点がある場合は専門家に相談するなど、検討することがいろいろあるでしょう。個人が家を建てる場合であっても、実際の工事は施工業者におまかせするものの、全てを丸投げしてしまうのではなく最後まで責任を持って関わることが大切です。また、施工業者側も、施主に適切な提案ができる良好なコミュニケーション関係を築くための努力が必要です。

 

施主と関連する用語の違い

「施主」は、慣用的な使われ方をしておりさまざまな用語と同じ意味があるため、他の用語が並んだときに混乱してしまうこともあるでしょう。ここでは、よく挙げられる「施工主」と「建築主」との違いを解説します。

 

施主と施工主の違い

「施主」と「施工主(せこうぬし)」は、しばしば混同されやすい用語のため意味の違いをしっかりとおさえておきましょう。施主が建築の工事を依頼する人または団体であるのに対して、施工主はその工事を受注する側の人または組織を指しています。実際に建設工事を行う施工業者が施工主にあたります。例えば、Aさんが自分の家を建てることをB会社に依頼したとしましょう。この場合、Aさんは施主で、B会社が施工主です。
類似する用語に「施工者(せこうしゃ)」がありますが、これは工事現場で実際に作業する人を意味していることが多いです。人と言っても範囲は広く、建築現場で働く人を全般的に指している言葉のため多数の人を意味しています。

 

施主と建築主の違い

「施主」と「建築主(けんちくぬし)」は、先述した通りどちらも同じ立場を意味しています。施主は慣用的な呼び方のため、法律上などの正式な場面では建築主がよく使われるでしょう。建築基準法の中で建築主は「建築物に関する工事の請負契約の注文者または請負契約によらないで自らその工事をする者」と定義されています。
建設工事請負契約では、発注者である施主および建築主が「甲」となり、受注者である施工主が「乙」の立場になります。契約書の用語の記載は個々に異なることがありますので、立場を理解して使われている用語を確認してから読み進めると良いでしょう。

 

施主としてのチェックポイント「施主検査」

施主の重要な役割のひとつに「施主検査」があります。施主検査は建築主検査とも呼ばれ、文字通り施主の立場で行う検査です。施主が法人や団体の場合は、担当者が施主検査を行うことになります。無事に希望通りの建物を建てるうえで、施主検査は重要なチェックポイントのため、あらかじめ知識を身に付けると共に準備しておきましょう。

 

施主検査の重要性

施主検査が行われる主なタイミングは、建築工事途中と完成後の2回です。完成後の引き渡し前に行われる施主検査は「内覧会」と呼ばれることもあります。建築工事では、建物を建てる過程でさまざまな検査を行う必要があり、施主に引き渡す前には「竣工検査」として、施工主も検査を行います。しかし、現場のプロが検査を行っているからといって、施主は施主検査で手を抜いてはいけません。
建物完成後の施主検査は、最後のチェックポイントとなるため、その後のトラブルを防ぐためにも、しっかりと細部まで問題がないか確認しましょう。施主と施工主には知識の差もあるため、施主は不明点について質問をし、施工主は質問に丁寧に答えることも大切です。施主検査は、施主だけでなく、依頼通りの建築物を提供するために施工主にとっても重要な検査です。

 

施主検査のチェックリスト

施主検査では、多くの事柄をチェックしますが、簡単なチェックリストとしては下記のようなポイントがあります。

工事中のチェックリスト
図面:図面通りに工事が行われているか等
基礎コンクリート:大きなひび割れや欠けた部分がないか等
断熱材:断熱材の周りに隙間がないか等

完成後のチェックリスト
図面:図面通りに工事が行われているか等
建物外部:外壁・屋根・外構などに、ひび割れや破損部分、ずれなどの問題がないか等
建物内部:室内・天井裏・設備などに、傾きや破損部分、がたつきなどの問題がないか等

 
工事中の施主検査は、工事完了後には見えなくなる部分のため、建物の基礎に問題がないかを主に検査することになります。気になるところがあれば、施主検査として依頼されているタイミングに限らず確認しに行くのもひとつの方法です。
完成後の施主検査では、建物の細部まで確認する必要があるため、チェックリストも多岐にわたります。施主検査のチェックリスト項目は、インターネット上でもさまざまに挙げられているため、施主自身で情報を集め必要な部分のチェックリストを作成してから検査を行うと良いでしょう。

施主検査で確認すべき具体的なポイント

施主検査では、確認する場所だけでなく、具体的に何をチェックするのかを把握しておくことが大切です。例えば、ドアを検査する際には、開く方向が合っているか、スムーズに動くか、などのポイントになります。照明器具に関しても、取り付け位置が合っているか、数が合っているかなど、複数の確認事項があるため、あらかじめチェックリストにわかりやすく記載しておくと見落としを防げるでしょう。
計画や図面通りに作られているかの確認に加えて、傷や汚れなどの有無も確認の対象です。隣地との境界部分に問題がないかも確認しましょう。天井裏の雨染みがないか、排水のつまりがないか、鍵が正常に動作するかなどの一見わかりづらい部分の確認も忘れずに行うことが大切です。

 

施主のための建築プロジェクト管理

建物を建てようと決めたときから、施主としての仕事はスタートしています。例えば新築の家を建てる場合、情報収集から始めて実際に家に住めるようになるまでには、少なくとも1年はかかるでしょう。トラブルをできるだけ防いで希望通りの建物を建てるためには、施主自身が知識を持ち、流れをおさえて取り組むことが大切です。

 

施主が知っておくべき基本的な建築用語

建築の知識を短期間で身に付けるのは大変なため、まずは説明を聞いたり書類を見たりしたときにすぐわかるように、建築用語の意味から学んでいくのもおすすめです。建築用語は多岐にわたっているため、知らない言葉が出てきた際に調べて把握しておくようにしましょう。具体的にどのことを表しているのかを、しっかりと認識しておくと説明を聞いたときの誤解も防げます。

 

基本的な建築用語の例
●外構:塀や庭、門、アプローチなど、建物外部にあるものの全体を指す。
●建蔽率(けんぺいりつ):敷地面積に対する建築面積(建物を真上から見たときの面積)の割合。
●容積率:敷地面積に対する延床面積(建物の各階の床面積の合計)の割合。
●ベタ基礎:鉄筋を入れたコンクリートの面で家を支える基礎工事の名称。

 

施主としてのプロジェクト管理のコツ

施主の目的は、施工主に希望通りの建築を行ってもらうことです。そのため、作りたい建築物のイメージはしっかりと持っておきましょう。理想通りの完璧なものを作るのは難しい部分もあるため、希望には優先順位を付けておくと役立ちます。また、近隣への挨拶など、やるべきことはリスト化しておくと良いでしょう。
時には専門家の力を借りることも、施主のプロジェクト管理のコツです。施主検査では検査について自信がなく不安を感じることもあるでしょう。複数名で検査に立ち会うほか、ホームインスペクター(住宅診断士)に依頼して見てもらう方法もあります。

 

成功する施主になるためのポイント

施主として成功し、希望通りの建物を建てるために大切なこととしてよく挙げられるのが、施主と施工主との信頼関係です。これは、建物の大小や個人と法人に限らず必要な事柄です。準備や計画を入念に行い、施主としての役割や責任を果たすことはもちろん、信頼関係を築くにはコミュニケーション術も役立つでしょう。

 

施主としての準備と計画

施主は、建物の構想から完成した建物の引き渡しまで、全体を通して関わります。全体の流れをおさえながら、個々のステップで自分がどのように関わるのかを把握して計画を立てましょう。
例えば、施主の希望をまとめた要望書を作成する、地鎮祭で施主が用意するものをそろえるなど、それぞれのステップで準備することも異なります。施主検査では、図面や懐中電灯、筆記用具など、必要な持ち物をあらかじめ用意してから検査に向かいましょう。

 

施主としてのコミュニケーション術

施主として施工主と信頼関係を築くためには、良好なコミュニケーションが欠かせません。気になることがあれば、遠慮せずに伝えることが、後々のトラブルを防ぐために役立ちます。その際には、丁寧に伝えることはもちろん、マナーも忘れないようにしましょう。現場の職人さんについて知ろうとする姿勢と共に、作業の邪魔をしない心掛けと、見学の前に許可をもらうなど、工事現場で勝手な行動をしないようにすることが大切です。
また、ある程度伝えたいことを整理してから伝えることも役立つでしょう。要望書も書き方のコツがあるため、工夫して書くと伝わりやすくなります。施主検査で気になった部分は、写真に撮っておくと情報をまとめやすいでしょう。



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