2025年4月10日
建設業界の産業構造は、ヒエラルキーです。元請業者から業務委託を受ける一次請け業者や二次請け業者は、下請業者と呼ばれています。下請業者になると、営業にリソースを割かなくても一定の業務量を元請業者から確保できるようになる点がメリットです。
そのため技能者が独立して、個人事業主として現場作業に従事する場合には、下請業者としてキャリアを積むケースが多く見られます。では、一次請け業者として成功を掴むためにはどうすれば良いのでしょうか?
本記事では、一次請け業者の定義や役割・責任、一次請け業者と二次請け業者の違い、成功を掴むための成長戦略をご紹介します。
建設業界やIT業界では、1つのプロジェクトを完成させるために、複数の下請企業が関わる構造が見られます。下請企業がさらに別の下請企業と下請け契約を締結する構造は、建設業界では重層下請構造と呼ばれるものです。近年では、目が行き届く管理体制に改善するために、元請業者が下請け契約の締結は二次請けまでに限定する取組みもあります。ここでは、一次請け業者とは何か詳しく見ていきましょう。
一次請け業者とは、元請業者から下請け契約に基づき、施工管理や労務管理を請け負う建設業者を指します。「一次」という言葉のイメージから、施主である発注者から工事を受注する元請業者と混同する人もいるでしょう。
しかし建設業界においては、工事を受注した元請業者が工事内容に応じて専門工事業者と下請け契約を締結し、一次請け業者として配置していきます。元請業者は基本的に1社であり、ヒエラルキーを構築しながら、複数の一次請け業者が配置される構造です。一方、IT業界の一次請け業者は、元請・直請・プライムと呼ばれる通り、建設業界とは定義が異なるので注意してください。なお資材業者、調査会社や警備業者など、建設工事に該当しない業務を行う業者は、元請業者と契約しても一次請け業者とは定義されません。
一次請けが受注した下請工事の一部を、下請け契約を締結することで、他の建設業者に再下請負させる場合があります。これが二次請け業者です。この場合の建設業法上の呼称は、一次請けが元請負人、二次請けが下請負人となります。
下請業者の役割分担のおおまかなイメージは、一次請けが施工管理、二次請けが労務管理、三次請けが労務提供です。しかし実際には、その役割分担は固定されていません。一次請け業者として、実質的に「斡旋」のみの業者が配置されているケースでは、二次請け業者は施工管理、労務管理、労務提供の全てを担うこともあります。あるいは、二次請け以降の間に入る全ての業者が、労務提供のみという場合もあります。
ここでは、建設プロジェクトにおける一次請け業者の役割と責任について見ていきましょう。
施工管理を担う一次請け業者は、プロジェクト管理を着実に実施する必要があります。プロジェクト管理では主にヒト、モノ、カネ、情報、時間を管理し、その大きな目的は設定された工期の厳守とコスト管理です。
非常に多くの関係者が建設プロジェクトに関わることから、何かトラブルが発生すると混乱を招き、余計な時間とコストがかかりかねません。トラブルが原因で想定外の費用が発生したり、下請代金の支払いが遅れたりすることもあります。万が一の際に、すぐに対策を講じられる態勢にしておくためにも、プロジェクト管理は確実に行いましょう。
設計図書どおりの施工か、品質を満たすかどうかを確認しながら、工程ごとに写真で記録を残す品質管理も重要な業務です。定められた品質を守ることは、発注者及び元請業者の満足度向上はもちろん、会社の評判を高めることにつながります。
また建設現場は危険と隣り合わせであることから、施工管理者は現場の安全を率先して管理することが大切です。労働災害のリスクを想定しながら、ヒヤリハット活動、KY活動、5S活動・作業員の健康状態の把握などにも取り組みます。
ここでは、一次請け業者になるための要件について見ていきましょう。
建設業法では、 建設業を営む者は元請あるいは下請を問わず、建設業許可を取得する必要があります。中でも一次請け業者は、一般建設業の許可が必要です。建設業許可の取得には、「経営能力」「財産的基礎」「技術力」「適格性」の4つの要件を満たす必要があります。ただし軽微な建設工事のみを請け負って営業する場合は、建設業許可は必要ありません。
また一次請け業者は、工事現場に施工をつかさどる主任技術者を設置する必要があります。主任技術者の資格要件は、次のとおりです。
内訳 | 主任技術者の資格要件 |
---|---|
一級国家資格者 | 一級施工管理技士、一級建築士、技術士 |
二級国家資格者 | 二級施工管理技士、二級建築士 等 |
実務経験者 | ・大卒(指定学科)後3年以上の実務経験
・高卒(指定学科)後5年以上の実務経験 ・10年以上の実務経験 |
【出典】技術者制度|国土交通省
一次請け業者としての立ち位置の確立は、特殊工事に必要とされる専門性を強化することで実現できます。一次請け業者は、特殊性の高い専門技術を必要とする電気設備、空調設備、衛生設備、消防設備などの工事を請け負う専門工事業者が多いです。そのため、それぞれの専門工事に関連する技術力を高めれば、多くの工事の引き合いが来ることになるでしょう。
一次請け業者として成功を掴むためには、どのような資質を備えれば良いのでしょうか?成功の鍵は、コミュニケーション能力とリスク管理能力の2つです。ここでは、それぞれの資質について見ていきましょう。
成功する一次請け業者は、施工管理者として工事を成功に導くために、高いコミュニケーション能力を常に発揮しています。施工チーム内部はもちろん、関係者間、そして元請業者とのコミュニケーションも大切です。コミュニケーションを通じて元請業者の意向を正確に理解しながら、プロジェクトを管理する必要があります。
またコミュニケーションを深めやすい環境を整備することも大事です。チャットツールの導入など、工事に関わる全ての関係者がコミュニケーションを取りやすい環境を整備することも検討しましょう。
成功する一次請け業者は、労働災害を未然に防ぐリスク管理能力も持ち合わせています。実際に高所作業や重機の使用が多いため、建設現場は墜落・転落や巻き込みなどの事故リスクといつも隣り合わせです。
そのような現場環境の中、人命を最優先することはもちろんですが、一定の施工品質が保ちながらスケジュール通りにプロジェクトを遂行することが求められます。そこで作業員の安全意識を高めたり、リスクアセスメントを導入したりといった対策を講じることが重要です。外国人労働者に対しても、安全衛生教育や健康管理を実施するようにしましょう。
さらに万が一、事故が発生してしまった時の対応策も、あらかじめシミュレーションしておくようにしましょう。救命活動はもちろん、被害拡大や二次被害発生を防止する措置が必要になります。また労働災害にも資材の窃盗・盗難、IT化による情報流出、現場でのパワハラなどのリスクに対しても対策が必要です。
ここでは、一次請け業者が抱える課題とその解決策について見ていきましょう。
建設業界は、長年に渡り担い手不足が大きな課題です。建設業就業者の高齢化と若年層の労働力不足が問題視される一方で、建設業の需要そのものは拡大しています。今後も建設業が安定的に発展していくためには、若年層が働きたいと思えるような現場環境を整え、業界のイメージを向上させていかなくてはなりません。
中でも長時間労働は、作業員への負担が増えるために、離職者が増えたり入職希望者が減ったりする要因です。そこで工期を適切に設定して、長時間労働にならないように配慮するなどの対策が必要になります。国土交通省は「建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン」を公表しているので、目を通しておくようにしましょう。
建設プロジェクトを成功させるためには、原価(コスト)が予算内に収まるようにコスト管理を行う必要があります。建設業の利益は、完成工事高から完成工事原価を控除して算出されるものです。利益を確保するためには、実行予算によるマイルストーン管理、つまり利益と原価の進捗管理を実施することが重要になります。
施工現場においては、変更コストの管理やコストモニタリングは不可欠です。そこでプロジェクトにかかるコストをリアルタイムで可視化・把握できるツールを導入するなどして、コスト管理を確実に実施するようにしましょう。
ここでは、一次請け業者向けに成長戦略のヒントとそのアドバイスをご紹介します。
ヒト、モノ、カネ、情報、時間を管理するプロジェクト管理を効果的に行うためには、いくつかポイントを押さえる必要があります。
まず、不要な作業にリソースを割かないためにも、プロジェクトの開始時期を確認しましょう。建設業では本格的にプロジェクトがスタートしているのか、あるいは立ち消えになりそうなのか、あやふやな場合があります。
プロジェクトの進捗状況をいつでも把握できるように、可視化しておくことも大事です。どの業界でも言えることですが、何らかの理由でプロジェクトの進行が止まることもあります。損を拡大させないためにも、プロジェクトの変更に即応できる管理体制を構築しておきましょう。
今後は、地球規模や地域レベルでの社会課題解決のために取り組む企業が、より多くのビジネス機会を得られます。持続可能な事業展開に向けた戦略を立てる際には、下記に挙げる建設業に関連したSDGs(持続可能な開発を実現するための目標)の優先課題を参考にしてみてください。
•優先課題3:成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
•優先課題4:持続可能で強靭な国土と質の高いインフラの整備
•優先課題5:省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会
•優先課題6:生物多様性、森林・海洋等の環境の保全
この背景にあるのは、日本政府が示したSDGsの実施方針で示された8つの優先課題です。経団連の企業行動憲章によっても、持続可能な社会の推進は企業が果たすべき重要な役割であることが示されています。