2024年11月12日
建築や土木などの建設業において、仮設工事について詳しく把握しておくことは大切です。足場作りは仮設工事でイメージされやすい工事のひとつですが、仮設工事には他にもさまざまな項目があり、それぞれ重要な役割を担っています。
今回は、仮設工事の概要から、種類、代表的な項目、手順や注意点まで、詳しく解説します。建設業界で働く前の予備知識としてもぜひお役立てください。
仮設工事は、その名の通り、仮の設備を作る工事のことです。大きな建物を建築する場合、作業を行うにあたって足場や水道などさまざまなものが必要になります。目的とする建造物の工事に必要な、施設や設備を作るのが仮設工事です。
建設工事を円滑に進めることと、安全に作業を行えるようにすることが仮設工事の目的です。足場や囲いを設置したり、電気や水道を引き込んだりといった、直接的に建設工事作業に必要になる設備のほか、仮設トイレや仮設事務所など、作業員のための環境作りも行います。また、建設工事終了後には解体と撤去が必要です。
目的となる建設工事を円滑かつ安全に行うために、仮設工事は大切な役割を担っています。適切な足場が組まれていれば、スムーズに作業を進めることができるでしょう。また、仮設ネットや仮囲いなどで足場や工事現場を囲うことは、材料の転落防止や防犯などのほかに、景観の維持や防音など、周囲への配慮も考えられています。
仮設工事の費用は、一般的に全体の工事費の3%~5%といわれていますが、足場の面積が大きい大規模な建設や長期の作業になると、それだけ費用もかかります。例えば、マンションの大規模な修繕を行う場合、仮設工事だけで全体の工事費の約20%を占める場合があります。
上記で解説したように、仮設工事はさまざまな工事を含んでいますが、全体の工事の各項目は「直接仮設工事」と「共通仮設工事」の2種類に分類されます。ただし、養生にまつわる作業は両方に属するなど、項目自体は共通する場合もあるため、各種類の目的や内容を把握しておくことがポイントです。
「直接仮設工事」は、建設工事自体に直接関わる工事のことを指し、代表的な項目が「仮設足場」と呼ばれる足場作りです。柱などの建物の養生をすることや、飛散防止や落下防止のための設備なども含まれます。また、作業中や作業後の屋内の清掃も直接仮設工事にあたります。
「共通仮設工事」は、主に工事そのものに関する仮設工事で、共通して全般的に必要な項目を指すのが特徴です。例えば、どの工事でも必要になるような、仮設トイレや資材置き場、現場事務所の設置などがあります。また、工事に必要な電気や水道の引き込み、建設工事自体に特化しない近隣を配慮した養生なども共通仮設工事に含まれます。
仮設工事には、やるべきことが多くあり、それぞれの工事にある程度の時間がかかります。例えば、足場の組み立てだけでも数日かかり、マンションのように大きな施設になると仮設工事だけで数週間かかる場合があるでしょう。そのため、予め仮設工事で何が必要なのかを把握しておくと役立ちます。下記では、主な仮設工事の項目を解説します。
建物の位置や高さを決める際に必要な「水盛・遣り方(みずもり・やりかた)」は、直接仮設工事にあたります。近年では、レーザーを活用した機器がよく使われますが、水平の基準を割り出し、杭や板などで囲い、建物の位置を確認する作業です。また、建物の外周を縄で囲む「地縄張り」も、仮設工事の一部です。
仮設トイレがない場合、近隣の公共トイレのある場所まで移動しなければならず、作業効率も低下します。作業員が快適に作業をするために仮設トイレは必需品のため、初期の段階で準備することが必要です。仮設トイレは、横転するとトラブルを招くため、しっかりと固定しましょう。また、仮設トイレの維持作業も含まれるため、快適に使用するためのプランも必要です。
工事現場では、消費電力の大きい電動工具が使われるため、仮設電気の工事は重要な項目です。使用する電気の容量や電柱の有無などの環境に合わせて、近隣の電柱から直接電気を引き込むのか、発電機を利用するのかを検討します。仮設電気設備のレンタルサービスを利用すると、一連の作業を任せることも可能です。
工事では水を使う作業も多くあるため、実際の工事が始まる前に、事前申請の作業も含めて仮設水道を準備しておくことが重要です。水道が整備されていない環境の場合は、メーターや給水管の設置が必要になり、使用にあたっては流し台や排水管の設備も設置します。
現場事務所は、現場の管理の拠点や事務作業、作業員の休憩所などに役立ちますが、ケースバイケースで設置のスタイルが変わります。敷地内に設置するスペースがあればプレハブを設置して資材置き場などと併用することができますが、スペースがない場合は近隣の賃貸物件を借りて現場事務所にする方法があります。
仮設足場は、作業のための階段や、床、手すりなどを設置する作業で、安全で効率良く建設作業を行うために重要な工事です。足場には、枠組足場やクサビ式足場などいくつかの種類があり、決められたルールに従って設置します。キャスターの付いたローリングタワーや、ゴンドラを使うゴンドラ足場なども、仮設足場に含まれます。
仮設ネットは、建築材料の落下防止や塗料の飛散防止などの役割があり、足場の周りに設置するものです。ネットには種類もあるため、現場に合わせて適切な物を選ぶことが大切です。工事現場では落下による事故が多く発生するため、落下防止のネットは作業員の安全を守るためにも慎重に設置しましょう。
仮囲いは、工事現場の周りを板塀などで囲む工事で、工事現場と周辺環境の双方の安全を守る役割があります。現場への関係者以外の立ち入りを防ぐと共に、防犯や事故防止に役立ちます。また、騒音や粉じんの防止や、景観を保つことも仮囲いを設置するメリットです。
養生は、主となる工事作業の周辺が傷付くことや汚れることを防ぐために、シートやボードなどを使って保護する作業です。上記で解説した仮設ネットや、防音効果のあるシートで囲うことなども、養生の働きを担っています。
「墨出し」は、施工図の内容を工事現場にメモしていく作業です。図面を見ながら、現場の床や壁などに、柱や設備の位置などを記していきます。墨出しを基準にその後の工事が進んでいくため、正確で精度の良い作業を行うことが重要です。
仮設工事には、解体による廃材や、梱包材などのごみ、加工によって出た廃材などの処分も含まれます。これらは産業廃棄物の扱いとなるため、適切な処分方法を予めおさえておきましょう。廃材置き場を用意しておくこともポイントです。
廃材の処分と関連する作業でもありますが、工事現場の整理整頓や清掃などの作業も仮設工事の一部です。使いたい資材がすぐに見つからない、不要なものが散乱しているといった環境では、安全で丁寧な作業の妨げになるほか、作業効率も悪化するため、工事期間中は欠かせない作業となります。
資材の運搬も仮設工事の一部です。資材だけでなく、クレーンのような大型の重機を運搬する作業もあります。資材の運搬では、エレベーターで運べるかどうかもポイントです。運搬方法によって費用が高額になる場合があるため、計画的な検討も大切になるでしょう。
工事現場には安全に作業を行うための警備も必要になり、警備の環境を整えることも仮設工事に含まれます。関係者以外を立ち入り禁止にする設備や、警備員や交通誘導員の確保、防犯カメラの設置、などがあります。資材や工具の盗難被害もあるため、十分に注意しましょう。
仮設工事の全体の作業を把握したら、次はどのように決めていくのか、仮設工事の手順もおさえておきましょう。
仮設工事は、打ち合わせや相談から始まります。仮設工事には、目的とする建設工事の基礎になる工事が多数含まれているため、安全対策もしっかりと考えておくことが大切です。また、ある程度まとまった費用がかかるため、予算も相談しておきましょう。
現地調査は、敷地面積や周辺環境などを把握するためにも大切な作業です。仮設工事で快適な環境を整えるためにも、交通状況や騒音の予測、景観まで、見落としのないように調査しましょう。
現地調査で情報を集めたら、次は見積りを出します。施工や工程の計画を立てて、かかる費用や工期などを割り出しましょう。
見積もりを提出すると、契約の段階となります。お客様の要望に沿っているかなど、場合によってはさらに打ち合わせを行い、内容を調整する場合もあります。
整地とは、文字通り地面を整えることです。仮設工事を行いやすくするために、工事現場の土地を平らに整えて、作業の妨げになる石や草木、不要な残置物などを取り除きます。
仮設トイレは、作業員が作業を行う際に必要なため、整地が終わり次第、最初に設置します。工事を始める際の、近隣への挨拶と同じ段階で取り掛かっておきましょう。
次は、工事現場で使用するための、仮設電気と仮設水道の設備を整えます。申請や許可が必要になり、使えるまでに1ヶ月程かかる場合があるため、余裕を持って取り掛かりましょう。
地縄張りは、周囲に縄を張り、建物の位置を確認できるようにする作業です。次に行う「水盛・遣り方」ほど綿密ではありませんが、建物の面積などがわかり、完成のイメージも持ちやすくなります。地鎮祭と同じ日に行われることがよく見られます。
次は、建物のより正確な位置を確認するために、「水盛・遣り方」を行いましょう。建設の規模などによって、半日から2日程度かかります。
建物の位置が決定したら、仮設足場を設置していきます。足場を組み終わったら、メインとなる建設工事に進み、必要がなくなるまで足場は残されます。
目的の建設工事が終了したら、仮設足場を解体します。不要になった設備などと共に、足場を撤去しましょう。足場の解体は、組み立て時の約半分の時間で解体できることが多いです。
最後に、仮設工事を行う際に注意しておきたいことを、いくつか解説します。事前に注意点をおさえておき、作業や計画にお役立てください。
傾斜地に足場を設置すると、より費用がかかる場合があります。例えば、勾配の大きい屋根に屋根足場を設置する場合や、坂道の途中の家で掘り込み式車庫がある場合などが挙げられます。また、3階建て以上の建物になると、より安全な足場を組む必要が出てくるため、材料費の追加や作業の手間によってさらに費用がかかる場合があります。
仮設工事についての見積書は、工事内容をよく確認するようにしましょう。工事内容と金額が合っているか、打ち合わせした内容や施工図などの情報も参考にしながら、見落としがないかどうかを見直します。
現場事務所は、快適性も重視して設置しましょう。厳しい労働環境のため、作業員にとって休憩が十分にとれる場所であることが重要です。衛生的な環境の確保と、更衣室などプライバシーを守る環境の設備も意識する必要があります。プレハブの現場事務所の場合は、温度管理が適切に行えるかどうかも注意しましょう。
廃材の処分にも関連する事柄ですが、産業廃棄物の保管場所には、看板を設置して必要事項を明記することが法令で定められています。産業廃棄物の保管場所であることと共に、廃棄物の種類や管理者の情報、廃棄物の数量、保管の高さ、などを記載します。
仮設工事は、メインの建設工事の準備としてもなくてはならない重要な工事です。工事をよりスムーズに安全に行うためにも、ひとつひとつの作業を丁寧に行うことが大切です。作業員が快適に作業を行うための環境作りでもあるため、工夫しながらより快適な現場を作っていきましょう。