土工工事におけるICT施工のメリット・デメリットを事例と共に分かりやすく解説
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土工工事におけるICT施工のメリット・デメリットを事例と共に分かりやすく解説

2024年11月5日

土工工事におけるICT施工を、政府が推し進めていることをご存知でしょうか?国土交通省が立ち上げた生産性革命プロジェクトの取り組みの1つが、建設業において新技術やデータの活用を推進する「i-Construction」です。
本記事では、土工工事におけるICT施工のメリット・デメリットを事例とともに解説します。

 


 

ICT施工の基礎知識

日本の生産年齢人口が減少するなか、建設現場における生産性を向上させ、魅力ある建設現場を実現することは喫急の課題です。そこで国土交通省では、ICT施工を「i-Construction トップランナー施策」の1つとして指定し、推進しています。ここでは、ICT施工の概要について見ていきましょう。

 

ICT施工とは?簡単に解説

ICT施工とは、「測量・設計・施工・管理・検査・納品」という建設生産プロセスにおいて、ICT(情報通信技術)を全面的に活用することです。たとえばドローンを活用することで調査日数を削減しながら高密度な3次元測量を行えるほか、3次元設計データ等によりICT建設機械を自動制御することで図面通りに施工できるようになります。
ICT施工では、ICT建設機械の自動制御が可能になるため、経験の少ない人でも熟練者と同等レベルの施工が可能になるとして期待されているのです。

 

ICT施工の重要性

建設業就業者は2022年には55歳以上が約36%、29歳以下は約12%と、全産業と比べても著しく高齢化が進んでいます。熟練技術者の経験、知識、熟練技術に支えられている建設現場において、高齢化は深刻な問題です。

しかし人手不足であっても、必要とされる品質を確保しながら、一定の工事量を消化しなくてはなりません。そのため、省力化・効率化・高度化を可能にするICT施工の重要性が増しているのです。情報通信技術を活用した建設生産システムを導入すれば、高度な技術の継承と安全性・生産性の向上を実現できるとして期待されています。

 

土工とICT施工の関係性

土工におけるICT施工の活用は、建設現場の生産性革命を目指すi-Constructionの中心的な取り組みです。i-Constructionにおいては、建設現場のなかでもとくに土工やコンクリート工に焦点を当ててトップランナー施策が策定されています。その理由は、土工やコンクリート工の生産性が30年以上前とほとんど変わっていないためです。

また3次元データを一貫して活用するICTを土工に導入するために、新基準や積算基準が整備されたほか、国の大規模土工はICTを活用するように指定されています。

 

土工作業におけるICT施工のメリット

ICTの導入によって、作業員の熟練度に左右されない均質かつ高品質な施工が可能になり、作業効率、精度、安全性が大幅に向上します。ここでは、ICT施工のメリットを5つ見ていきましょう。

工事計画の効率化

従来は、設計図から施工土量を算出していました。ICT施工を導入すると、現況地形の3次元測量データと設計図面との差分から、切り土、盛り土量などの施工量を自動算出できるようになります。そのため工事計画を作成する際に、大幅な効率化が可能になるのです。

 

リスクの軽減

ICT施工を導入すると、あらかじめ入力した3次元設計データをベースに施工するようになります。従来は、建機周辺での出来形測定や丁張り設置作業がつきものでした。ICT施工ではこれらが不要になるため、建機と人の接触事故等の心配もなく安全に作業が行えるのです。

 

コミュニケーションの容易化

ICT施工の導入によってコミュニケーションが取りやすくなるので、取引先との良好な関係の構築や若手の育成に役立ちます。

たとえば建設現場で課題が生じた際に、責任者や取引先を集めて実施される会議です。Web会議・映像配信システムを導入すれば、遠方へ出張することなく、いつでもどこでもリアルタイムな会議を実施できます。また遠隔地にいる経験豊富な作業員から映像を通じて指導を受けられるため、若手の技術や知識の向上につながるのです。

 

品質管理の向上

「データを活用して品質管理の高度化等を図る技術」など、国土交通省は建設現場の生産性を向上するプロジェクトを公募してきました。実際にドローンなどを使用した3次元測量を活用すれば、従来と比べて検査項目が半減します。その結果、納品物の検査の省力化が可能になり、品質管理の向上につながるのです。

 

作業負担の軽減

国土交通省の調査によると、土工・舗装・浚渫においてICT施工を実施したところ、施工時間を約3割短縮できたとのことです。施工時間を短縮できれば作業員の負担を軽減できるため、働きやすい環境につながります。また施工データを利用できるので、書類作成や保管にかかる手間や工程も削減可能です。

 

土工作業におけるICT施工のデメリット

ICT施工にはさまざまなメリットがありますが、実際に建設現場にICTを導入するとなるとデメリットも考えられます、ここでは、ICT施工のデメリットを4つ見ていきましょう。
 

導入コストがかかる

ICT施工を導入する際には、設備投資としてまとまった額の導入コストがかかることを覚悟しなくてはなりません。ICT建設機械(以下、ICT建機)は、一般的な建機に比べて価格が高めです。情報通信技術を活用するためのインフラとして、通信環境も整える必要があります。

そのため、小中規模の建設会社にとってICT施工の導入負担は非常に大きいものです。高額な費用負担をためらい、ICTの活用がなかなか進まないケースが多く見られます。

 

学習の必要性

ICT施工を導入するとなると、工事に関わる関係者全員に一定の知識が必要になります。現場の作業員は、新たな工法や技術を学習する必要が出てくるため負担が大きいと言えるでしょう。学ぶ内容は、3次元測量や3次元測量データをベースにした設計・施工計画の立て方、ICT建機の施工技術など多岐にわたるものです。

土工作業員の中にはハイテクに興味関心がない人も多いことから、新しい技術を受け入れられない人もいます。従来の手法を踏襲したい土工作業員にICT施工の学習を促しても、なかなか上手くいかないかもしれません。

 

プライバシーの懸念

ICT施工では、あらゆるモノがネットワーク回線に接続する「IoT」を用いて、ICT建機などあらゆるものが「つながる」ため、プライバシーの懸念が生じます。近年ではネットワーク回線だけでなく、全地球測位システム(GPS)など全球測位衛星システム(GNSS)に接続することで、無人化施工を行うことも可能です。

現場で外部のネットワークに接続するようになると、ハッカーの侵入経路も拡大するため、サイバー攻撃のリスクも高まります。つまりICT建機の制御操作を、ハッカーに乗っ取られるリスクも生じるわけです。そのため、ICT施工とセキュリティ対策は両輪で実施していくことが必要になるでしょう。

 

作業員の適応への労力

従来の施工管理だけでも手一杯にもかかわらず、新たに導入されたICT施工に適応するため、作業員は多大な労力を要求されることになります。また建設業界は現場によって条件が大きく異なるために、現場ごとに適切な技術を選択していくのはなかなか難しいのです。

余裕がない中で、新しいことにチャレンジすることになると、過度のプレッシャーから現場が疲弊することも考えられます。

 

土工におけるICTツールの活用事例

ここでは、土工におけるICTツールの活用事例を3つご紹介します。

 

BIMの活用

BIM/CIMは、建設工事の全てのプロセスに3Dモデルを導入することで関係者の情報共有を容易にする技術です。従来の2D図面を用いた情報共有とは異なり、目的物の完成イメージをそのままモデル化できるという特徴があります。

そこで出来上がり全体イメージの確認、現場条件の確認、施工ステップの確認、事業計画の検討などにBIM/CIMは活用されているのです。工事関係者間の勘違い、ミス、手戻りを大幅に削減し、速やかな合意形成を助けるツールとして注目されています。

 

クラウドサービスの利用

全工程を見える化するために工事管理者やオペレーターなどの人、ICT建機やダンプトラックなどの重機、三次元測量や重量計測器などの計測データの情報をクラウドでつなぐ活用事例があります。これにより、すべての現場担当者間で施工の進捗や出来形の情報をリアルタイムで共有が可能です。

またコマツとNTTドコモ等が共同で開発し、建設現場の生産プロセスにかかわる土、機械、材料などあらゆる「モノ」をつなぐオープンなIoTプラットフォーム「LANDLOG(ランドログ)」の利用も拡大しています。

 

IoTの導入

IoTとは、情報伝達機能やセンサーを組み込んだモノをネットワークでつなぐことです。ICT施工の場合、3次元設計データ等を活用したICT建機の自動制御でIoTが実施されています。自動制御によって、作用効率や精度の向上、作業日数の短縮ほか、オペレーターの負担軽減などを実現可能です。

 

ICT施工に関連する資格

ここでは、ICT施工に関する資格についてご紹介します。

 

必要な資格

ICT施工は情報通信技術を活用した施工なので、資格や免許は特に必要とされていません。しかしICT施工につきもののドローン操縦ライセンスの取得や、3次元CADなどの技術の習得は、必要に応じて取り組む必要があります。国は将来的に産官学が一体となったICT施工技術者の育成体制を構築すべく協議を重ねているので、その動向をチェックするようにしましょう。

建設業の若手技術者スキルアップの定番といえば、現場技術土木施工管理技士会(以下、技士会)が実施する講習会です。技師会では、CPDSと呼ばれる継続学習制度を運用しており、必要に応じて学習履歴の証明書が発行されます。公共工事の入札の総合評価における技術者加点や経営事項審査の評点にも活用されている点がポイントです。

ほかに民間企業が運営する「i-Constructionスペシャリスト養成講座」もあります。国家資格を取得して、現場のマネジメントをしたいなら技術士や施工管理技士を目指すと良いでしょう。

 

資格取得後のキャリアパス

技術士の資格を取得すれば、技術的な指導を行えるようになります。施工管理技士の資格を取得して施工全体をマネジメントできるようになれば、ダムや橋梁の建設など大規模なプロジェクトをコントロールする立場になることも可能です。

 

ICT施工の未来

2016年からスタートしたi-Constructionは、2023年で8年目を迎えました。ここでは、ICT施工の未来についてご紹介します。

 

ICT施工の進化と将来の展望

ICT導入協議会は協議を続けているほか、毎年工種の拡大を行うなどICT施工は進化し続けています。国土交通省は構造物工へのICT活用を推進するほか、中小建設業でもICTを活用しやすくするため、小規模工事への適用拡大を検討中です。2023年度からは、ICT構造物工における橋梁上部工、小規模工事での暗渠工が追加されるほか、小規模工事を除く全ての公共工事におけるBIM/CIM原則適用もスタートしました。

 

産業や建設業界へのICT施工の影響

i-constructionが加速すると、作業員の負担が軽減されるほか、危険を伴う業務を行わずに済むケースも増えていきます。そのためICT施工の拡大によって、建設業界につきまとう3K(きつい・汚い・危険)のイメージは徐々に薄れていくでしょう。

 

ICT施工で未来が変わる

深刻な担い手不足にあえぐ建設業界の未来は、ICT施工によって大きく変わります。従来は、ベテランのオペレーターが退職すると高度な技術が伝承されておらず、悔いが残ることもあったでしょう。しかしICT施工の導入によって、高品質な施工に必要な技術の維持・向上は容易に実現できるようになります。

また丁張りレスによる施工の合理化や、建機周りに測量員が不要になることで安全性の向上につながるなど、多くの人が働きやすい環境を提供できるようになるのです。建設業界は、ダイナミック変革がまさに起きようとしている重要な転換点を迎えていると言えるでしょう。

 


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