コストオン方式入門:建設プロジェクトの新しい発注戦略
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コストオン方式入門:建設プロジェクトの新しい発注戦略

2024年10月22日

近年では建設生産システムが多様化しており、分離発注方式、CM方式、コストオン方式などと呼ばれる発注方式名を耳にするようになりました。本記事では、とくにコストオン方式入門編として、その概要やメリット・デメリットについて解説します。建設プロジェクト管理に興味のある方は、新しい発注戦略としてコストオン方式入門をぜひ参考にしてみてください。

 


 

コストオン方式の概要

ゼネコン・総合建設会社などの元請会社に設計・施工を依頼する一括発注方式に対して、コストオン方式は指名サブコン方式とも呼ばれています。日本では、設備工事において独自の指名下請方式があるため、コストオン方式は比較的事例の多い契約形態です。ここでは、コストオン方式の概要について見ていきましょう。

 

コストオン方式とは

コストオン方式とは、発注者が専門工事会社を直接指名し、かつ当該部分工事の価格決定を行った上でコストオンフィーを上乗せして、元請会社と契約を締結する建築工事の発注方式の1つです。発注者側は自らの要望を適切に反映できるほか、コスト削減戦略としても効果を見込めることから、コストオン方式は注目されてます。
専門工事会社とは、電気、空調、衛生、消防などの設備施工を請け負う業者のことです。元請会社から、専門工事を下請契約で請け負うことから通称サブコンと呼ばれるほか、コストオン方式の文脈においてはコストオン会社と呼ばれることもあります。
なおコストオン方式と分離発注方式は似ていますが、発注者が建築と設備を別々に発注する分離発注では、専門工事会社が元請となり発注者と直接契約する点が大きな違いです。
コストオン方式の契約における責任分担を簡単に解説すると、元請会社は安全面に対して、専門工事会社は品質面とコスト面に対して責任を負います。後述するコストオン協定書に従い、専門工事会社は発注者に対して「完成責任」「品質責任」「瑕疵(かし)担保責任」を負うことを押さえておきましょう。

 

コストオン方式の発注プロセス

ここでは、コストオン方式を採用した発注の流れについて見ていきましょう。

①施工業者選定
完成した実施設計をもとに、発注者は施工業者(専門工事会社)を選定します。

②元請建設業者の決定
コストオン方式であることを前提に、建設プロジェクト管理を担う元請建設業者を相見積や入札などによって決定します。場合によっては、施工業者選定が後になることもあるでしょう。

③コストオン協定書の締結
発注者は「コストオン協定書」を作成し、元請会社、専門工事会社との間で締結する必要があります。コストオン協定書(以下、協定書)とは、コストオン方式の発注における当事者の業務内容や責任区分などを定めた契約書です。三者間で協議した上で、コストオンフィーおよび仮設インフラ、揚重機、仮設機材などの提供についても協定書で定めておくことが重要になります。なお発注者、元請会社、専門工事会社に加え、工事監理者やCM(Construction Management)会社が協定書を締結するケースもあるでしょう。

④下請契約と元請契約の締結
次に元請会社は専門工事会社と、発注者と専門工事会社が合意した金額で「下請契約」を締結します。さらに元請会社は、発注者と専門工事会社が合意した金額にコストオンフィーを上乗せした金額で、発注者と「元請契約」を締結する流れです。コストオンフィーには、統括管理費や安全管理費などが含まれます。

⑤元請会社から専門工事会社へ発注
元請会社が、専門工事会社や納材業者に発注し、建設プロジェクトを管理します。専門工事会社は、元請会社の管理のもとで工事を施工する流れです。

 

コストオン方式のメリットとデメリット

ここでは、コストオン方式のメリットとデメリットについて見ていきましょう。

コストオン方式の利点

まずはコストオン方式のメリットについてご紹介します。

・発注者の意向を反映しやすくなる

コストオン方式を採用することによって、元請会社ではなく発注者自身が施工にあたってコスト・仕様・品質を決定できます。発注者は専門工事会社と直接交渉できるので、意向や希望する施工品質を反映しやすくなります。

・工事費の透明化やコスト削減につながる

発注者は専門工事会社と個別に交渉して、工事区分ごとに費用を決定してから元請会社に発注するため、工事費の内訳を事前に把握できるようになります。さらに現場管理にかかる統括管理費や安全管理費などをコストオンフィーとして加算した上で元請会社に発注するため、工事費の透明化を図りやすいのです。またコストオン方式では、元請会社は専門工事会社が施工した範囲の瑕疵担保責任を負いません。そのため一般的なコストオンフィーは、一括発注方式における現場管理費の比率よりも低いケースが多いことから、その分、コスト削減につながります。

・発注者の調達力を活かせる

資材納入会社から直接資材を調達することで資材の価格を事前に決定し、より資材調達コストの安い方法を選べる点がメリットです。設備工事に限らず、広い意味でコストオン方式をコスト削減戦略として採用する例として、発注者が資材等の調達先および価格決定したうえで、その内容を工事請負工事の契約条件の一部とするケースがあります。請負工事に使用する資材を発注者がまとめて調達することでスケールメリットが期待できる場合や、競争入札によって資材を安価に調達できる場合は、コストオン方式によって資材費を縮減できるからです。

・同種工事によるスケールメリットを得られる

同種工事を同時に進行するようなケースでは、一部の工事や資材調達をコストオン方式で契約することで、同種工事におけるスケールメリットが得られる可能性があります。

・系列関係を反映した専門工事会社を選べる

とくに民間の発注者によく見られる事情として、系列関係を反映しやすい点もコストオン方式のメリットと言えます。

・柔軟な工程管理が可能になる

コストオン方式なら、専門工事会社が早い段階から設計に参加できるほか、設計が確定した部分から先行して施工が可能になります。日本においては、設計の確定が遅いケースが多々あるため、柔軟な工程管理が可能になる点は大きなメリットです。

・工事管理を元請会社に委ねられる

現場の一元管理を元請会社に委ねられるため、発注者の負担を大幅に軽減できます。

 

コストオン方式の潜在的なリスク

コストオン方式による発注は、安易に採用すると発注者の負担が増えるばかりで、本来の目的を達成できないかもしれません。ここでは、コストオン方式の潜在的なリスクについて見ていきましょう。

・発注者側の工程が増える

直接交渉など、専門工事会社への関与の度合いが高いため、発注者側の工程が増えます。たとえば発注者が資材納入会社から調達した資材を工事施工会社に引き渡すケースでは、調達資材の品質確認や管理を行うことになるので、発注者の負担が高くなりがちです。

・発注者に知見がなければ、ハンドリングに支障がでる

コストオン方式においては、発注者が専門工事会社と直接交渉することになります。発注者側に一定以上の知識と経験がなければハンドリングしきれず、希望する成果を得られない可能性があります。

・元請会社が受注したがらない

コストオン方式においては、元請会社にとっては管理経費のみの計上となることから、利益率が下がる傾向にあります。そのためコストオン方式の採用に元請会社が難色を示し、当該工事を引き受けたがらないかもしれません。たとえば元請会社を選定する際に、相見積や競争入札を実施するケースがあります。しかし利益確保を優先して、各社ともに慎重な値入となりがちなため、発注者側のコストがかえって上がるリスクもあります。

・責任区分が曖昧で、解決に労力がかかる

引渡し後に重大な不具合が発生すると、コストオン方式を適用した工事区分は専門工事会社が発注者に対して瑕疵担保責任を負います。しかし不具合事象が複数の工事区分に及ぶ場合には、責任区分も曖昧になりがちです。こういったケースでは、発注者が労力をかけて、原因追及や責任負担の調整を行う可能性がでてきます。
 

コストオン方式の適用と実践

 

コストオン方式の適用例

資材調達を工夫するためにコストオン方式を利用した例や、コンストラクションマネジャー(以下、CMR)が設計や発注、施工の各段階で各種マネジメント業務を行うコンストラクションマネジメント(以下、CM)方式と組み合わせた例をご紹介します。
 

高速道路会社における資材調達の工夫事例
「助成金交付における経営努力要件適合性の認定」を受けるにあたり、高速道路会社がコストオン方式を活用して資材調達を工夫した事例をご紹介しましょう。この事例では、発注者である高速道路会社は、トンネル照明器具の資材納入会社、工事施工会社の三者間でコストオン協定を結んでいます。
また発注者は、資材納入会社と調達契約を締結して、あらかじめ資材の価格を決定しました。この調達契約の内容に基づき、発注者と工事施工会社は工事請負契約を締結しているのです。さらに資材納入会社と工事施工会社は、売買契約を締結しています。
これにより発注者側では材料検査、品質管理、性能確認などの管理工程を担う必要があるほか、工事請負契約に基づき工事施工会社に資材の支給を行う工程が発生したのです。一方、スケールメリットを加味した調達契約によって実現した資材の調達費用の縮減によって、助成金交付の要件である「会社の経営努力によるもの」との認定を受けられることになりました。
今回は高速道路会社の例をご紹介しましたが、電力会社等でもコストオン方式による資材調達は、発注方式の1つとして採用されています。

 

小規模な専用住宅建設の事例
身近な例として、個人向けの住宅建築において「CMコストオン一括発注方式」を採用した例をご紹介しましょう。発注者の目標は、自らの意向である総合建設業者に発注すること、工事費を予算内に収めることの2点でした。発注者はCMRと設計監理およびCM業務にかかる委託契約を締結した上で、元請会社である総合建設業者と工事請負契約を締結しています。CMチームの役割は、主に専門工事会社の選定支援と、コストマネジメント・調達マネジメントの一部に携わるというものです。
総合建設業者の下請業者会のメンバー会社に加えて、外部の専門工事会社を加えて相見積りを依頼したところ、競争原理が働きコストの縮減を実現できました。選定された専門工事会社と元請会社である総合建設業者との間で、コストオン方式による契約を締結しています。
このようにコストオン方式を採用する建設プロジェクトにおいて、CMRが工事間の調整、設計内容の調整、コスト管理や技術的な審査等にかかわる事例は民間建築と公共建築の双方でよく発生します。

 

コストオン方式の管理と最適化

コストオン方式を契約に採用する主な目的は、発注者の意向の反映と工事費の縮減です。しかし建設プロジェクト管理のプロではない発注者側が、コストオン方式の発注方式のもと、予算との整合性を判断しながら工事全体を最適化することは非常に難しいと言えます。そこで、近年では建設プロジェクト管理をサポートするCMの考え方が注目されているのです。CM方式は、今まで発注者と受注者の双方が行ってきた発注計画、契約管理、施工監理、品質管理等)の一部を、第三者に行なわせる発注方式となります。プロジェクトをトータルでサポートするサービスやコスト関連の悩みをスポット支援するサービスなどが登場しているので、利用を検討してみると良いでしょう。
 

コストオン方式の未来と革新

近年では、民間工事はもとより公共工事においても、発注者にとってメリットのある多様な発注方式が導入されています。発注方式が多様化している現状を踏まえると、従来の設計・施工一括発注方式が必ずしも最適とは言えないため、発注者には最適な発注方式を選定する力が必要です。ここでは、コストオン方式の未来と革新の観点から、建設プロジェクトの今後について見ていきましょう。
 

新技術とコストオン方式

建設業界においては新技術が登場していることから、発注の現場はどんどん高度化しています。実際に「i-Construction」や「BIM/CIM」などの3次元データの普及が急速に進むなど、建設現場でICT技術はますます活用されているのです。ICT技術を活用した前例となるプロジェクトがない場合には、発注者は要望を実現するためにいくらかかるのか検討もつかないことが想定されます。また工事見積書の妥当性が判断できないこともあるでしょう。そこでコストオン方式を採用して工事全体を最適化する場合には、発注者側で負担を抱え込まずに、中立的な技術やマネジメントの専門家を雇うことも検討するのがおすすめです。たとえば、日本コンストラクション・マネジメント協会の会員であるCMRの専門的な技術力を活用することも検討してみてください。専門家の技術力があれば、設計段階から工事完成まで工事全体のコスト縮減と工期短縮を期待できます。
 

コストオン方式の将来的な展望

コストオン方式は、発注者にとってのメリットばかりではありません。下請に位置付けられる専門工事会社にとっても、価格決定に関与できることから、ある程度の意思を反映しやすい発注方式として期待されています。また建設業界で長年に渡り問題視されている、重層下層構造の改善につながることも考えられるのです。重層的な施工体制においては、工事における役割や責任の所在が不明確になるほか、品質や安全死の低下、下請の対価の減少や労務費へのしわ寄せなどが問題視されています。今後コストオン方式が広がることで、建設業界の抜本的な体質改善につながるかもしれません。

 


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