耐震スリットの目的とは?施工方法や標準図の役割を解説
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耐震スリットの目的とは?施工方法や標準図の役割を解説

2024年9月17日

鉄筋コンクリート造の建物は、鉄筋とコンクリートが相互に補完し合う構造を持っています。この鉄筋コンクリート造の建物に必要とされる耐震スリットについて把握しているでしょうか?耐震スリットは、構造スリットとも呼ばれるものです。本記事では、鉄筋コンクリート造の建物には欠かせない耐震スリットについて解説をします。施工方法や標準図の役割も紹介しますので、鉄筋コンクリート造の建築に携わる方はぜひ参考にしてください。

 


 

耐震スリット工法の基本

1981年に建築基準法が改正され、新耐震基準が設けられました。新耐震基準を満たすために耐震設計の一手法として採用されているのが耐震スリットです。
耐震スリットとは鉄筋コンクリート造の建物の壁の柱端、または梁上・梁下などに設ける緩衝材を意味します。この緩衝材の多くは、耐火性能や防水性能を有する既製品です。とても柔らかい材質であるため、鋭角な器物との衝突や角当ては損傷の原因となることから、慎重な取り扱いが必要となります。
ここでは、耐震スリット工法の基本について見ていきましょう。

施工方法

構造計算上において重要な柱・梁・床から、重要性の低い袖壁、垂れ壁、腰壁などの雑壁を切り離します。中古物件の耐震補強工事では、RCレーダーによって鉄筋の位置を把握することが大前提です。グラインダーで壁を切断し、3〜5センチほどの隙間(スリット)を作ります。柱と梁、壁というブロックごとに切り離してスリットを作った後、空いた隙間には緩衝材を埋め込むように設置する流れです。
新築の場合には、型枠施工時に耐震スリット材を構造計算から導き出された位置に充填します。

 

耐震スリットの目的

構造スリットは、震度6強の地震が発生した際に建物の柱や梁のせん断破裂による建物倒壊を防ぎ、人命を守る目的で設けられています。RC造の建物において柱と壁、梁と壁などを切り離すことで、地震発生時に加わる応力を逃がし、構造物の一部に集中的に負荷がかかるのを防ぐために実施されるのが耐震スリット工事です。
柱の剛性を大きくしないため、柱と壁が繋がっていない状態にする耐震スリットが必要になります。緩衝材を隙間(スリット)に挟むことによって柱の変形や破壊を最小限に抑え、水平な揺れに対して部材がぶつかりあって構造体のせん断破壊が生じるのを防いでいるのです。

 

目地との違い

「ひび割れ誘発目地」と似た構造をしているため、スリットと目地を混同している人もいるかもしれません。スリットと目地は、両方とも切れ目や分かれ目のことですが、建設業界においてスリットと目地はそれぞれ異なる意味を持っています。
スリットは、柱と壁、床と壁を切り離して隙間を儲けることで構造体の剛性を小さくし、建物の揺れに対する耐震性を増す目的で設置されるものです。一方で目地とはコンクリートの表面に溝を設けることで、タイル等のひび割れを防止する目的で設置されます。
 

耐震スリットの施工方法

耐震スリットは、構造スリットとも呼ばれています。新築工事では構造スリット、耐震補強工事では耐震スリットと呼ばれたのがはじまりという説があります。近年では大地震の影響で耐震を意識するようになっており、現場では耐震スリットと呼ばれることが多いようです。
ここでは、建築物のねばり強さを向上させる耐震スリットの施工方法について詳しく見ていきましょう。

地盤調査を行う

耐震設計のための地盤調査は、地表から工学的基盤を調べる表層地盤の調査と、工学的基盤から地震基盤を調べる深部地盤の調査の主に2つの調査に分けられます。
 

壁や柱の準備

建物の構造の安全性を確保するためには、構造設計者が柱・梁・床・基礎・一部耐震壁など主要構造部だけで建物を保持できるように、構造計算をします。構造計算と構造図で指定された位置に、適切な方法で耐震スリットを取り付ける流れです。

 

スリットの設置

耐震補強工事で耐震スリットを設置する際には、電磁波レーダーでコンクリート構造物内の鉄筋探査を行った上で設置します。新築の場合には、指示された耐震スリット設置場所に従い、型枠施工時に耐震スリット材をセットする流れです。
コンクリート打設時には、ねじれ曲がりはずれなどの不具合が生じやすくなります。そのためコンクリート構造物の型枠脱型後に、スリット設置状況を調査することが非常に重要です。不具合があれば耐震性能に影響するため、必ず補修してから仕上げに進むようにします。また、耐震スリットがずれていると建物自体の美観が損なわれることから、型枠大工には高い技術力が求められています。
施工方法には完全スリット部分スリットの2種類があり、それぞれ構造の考え方が異なります。柱と壁の間を完全に縁を切って分離して配筋する完全スリットと、一部の鉄筋をつなげる部分スリットの2種類があり、標準図で指定されたとおりに配筋することが大切です。

 

補強材の設置

耐震スリット材を設置したスリットに充填する場合、補強金具、コーナー補助材、鉄筋養生カバー、ジョイント金具などを使用することがあります。標準図をよく読んで、決められたピッチで補強金具などを正しく設置するようにしましょう。

 

スリットの充填

スリットを設置した後に隙間が空いたままにしていると、耐火性、防水性、保温性に問題が生じるため、注意が必要です。そこで、スリットに発泡ポリエチレン製などのスリット材やロックウールなどの耐火材を充填した後、上から止水用にシーリングを行うようにします。場合によっては、防錆材やバックアップ材を充填してから仕上げましょう。

 

仕上げ作業

外壁タイルが耐震スリットをまたぐと、浮いてしまいがちです。設計段階で配慮することはもちろんですが、現場ではしっかり固定するように注意します。万が一、施工中や引き渡し後などにずれが生じると、水漏れやひび割れの原因になるからです。
外壁でなければ、耐震スリット工事の仕上げに同色の塗装を施せば、工事の跡はほとんど目立ちません。鉄筋コンクリート造の建物の美観を損なわないためにも、最後に塗装を施して仕上げるようにしましょう。

 

耐震スリット工法の標準図

ここでは耐震スリット工法の標準図についてご紹介します。

標準図の役割と利用方法

標準図の役割は、施工にあたり使用する備品の形式形状配置標準的な施工要領などの情報を分かりやすく示すことです。標準図は、耐震スリットを用いた設計・施工・管理にあたり必要とされる標準的な情報が示されたマニュアルあるいは仕様書という言い方もできるでしょう。
建築設計事務所や建築施工会社は、施工にあたって標準図を利用すれば、施工の品質や性能を確保できるほか、設計図書作成の効率化や施工の合理化につながります。耐震スリットの取り付け手順やコンクリート打設条件・方法はもちろん、注意事項をよく確認してから施工に着することが大事です。

 

承認プロセスの効率化具体的な標準図の例

スリットは構造によって完全スリットと部分スリットに分類されるほか、柱・壁間においては垂直スリット、梁・壁間においては水平スリットと呼ばれます。そのため標準図においては、スリットの種類ごとにさまざまなタイプの耐震スリット材の仕様が記載されていることが多いです。標準図に記載されている内容の具体例は、次の通りです。

  • 構造スリットの分類とスリット幅
  • スリット材および耐火材の仕様
  • 標準施工例
  • 標準納り
  • 品名・品番および対応壁厚
  • 設計仕様

 

耐震スリットのメーカーの選び方

鉄筋コンクリート造に不可欠な耐震スリット材は、耐震・耐火と災害に直結します。そこでここでは、耐震スリットのメーカーの選び方について5つのポイントを見ていきましょう。
 

技術力

現場のニーズにそった優れた商品開発を行う卓越した技術力を持つかどうかも、耐震スリットのメーカーの選び方のポイントです。耐震スリット材の品質はもちろん、施工性、仕上げ外観を含むさまざまな要望に応えてもらえるでしょう。
また、施工に合わせて垂直完全スリットや水平スリット、推奨副資材などのラインアップが豊富に揃っているかも確認してみてください。

 

カスタマーサポート

耐震スリットのメーカーとして、建築設計事務所や建築施工会社の要望にどの程度応えてくれるか、カスタマーサポートのレベルもチェックしておくことが大切です。施工講習会の開催を引き受けてくれたり、大型自動倉庫をもつなど物流機能が優れていたりすると、安心してお取引きできるでしょう。
 

費用対効果

耐震スリット材に限ったことではありませんが、費用対効果も選び方において大事なポイントです。過不足なく間に合っており事足りている状況を意味する、必要十分という考え方があります。必要以上に性能にこだわりすぎると、コストがかかりすぎて費用対効果が低くなるので注意が必要です。
 

評判

建築物を建てるときには、良い道具・資材を使った良い工事を心がけることが大切です。同業者と意見交換することも視野にいれながら、建設業界における耐震スリットのメーカーの評判もぜひチェックしてみてください。多少の技術の差があっても問題なく固定できる耐震スリットを開発しているメーカーもあります。品質はもちろん、施工のしやすさ、納期の早さ、要望への柔軟な対応などの評判を探ってみましょう。
 

建築に重要な耐震スリット

耐震スリット工事は、地震の横揺れによって構造体のせん断破壊が生じて建物が倒壊しないように、既存の壁と柱の間に切れ目を入れる工事のことです。この切れ目が耐震スリットと呼ばれるもので、耐震スリット材と呼ばれる緩衝材を充填して仕上げます。
壁と柱の間に切れ目によって遊びが生まれることにより、柱にねばりが出るというわけです。鉄筋コンクリート造の建物の設計や維持において、耐震スリットは重要な役割を果たします。地震発生時に主要構造部に悪影響を及ぼさないためにも、耐震スリットの施工にあたっては標準図をよく確認するようにしましょう。

 


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