2024年8月27日
人材不足に悩む建設業界において、DXによる変革は急務だと言われています。たとえば申請・承認・決裁を必要とするワークフローは煩雑で、業務が滞る原因になりがちです。
ワークフローシステムを導入すると、建設業界が抱える課題解決の一助になるかもしれません。そこで本記事では建設業界の課題、ワークフローシステムの効果や活用例などを解説します。
建設業界の現状は、数多くの課題に直面しています。ここでは建設業界の抱える課題を、洗い出してみましょう。
2023年4月に国土交通省が公表した「最近の建設業を巡る状況について【報告】」によると、建設業就業者の落ち込みは次のとおり顕著です。
685万人(1997年)→504万人(2010年)→479万人(2022年)
また、建設業就業者の年齢構成も問題視されています。2022年は55歳以上が全体の35.9%、29歳以下が11.7%となっており、建設業の未来を担う若年層の割合が少ないからです。さらに、2021年と比較すると55歳以上は1万人以上増加したのに対して、29歳以下は2万人減少と若年層は定着しにくいことも分かります。
建設業界においては、生産性の低さも大きな課題です。日本建設業連合会が公表する建設業デジタルハンドブックによると、建設業における2021年の付加価値労働生産性は2,944円/人・時間でした。全産業平均の4,522円/人・時間と比べると、大きく下回っていることが分かります。
現場ごとに作業環境が異なるために、作業の標準化が難しい点などが建設業界の生産性が低い理由かもしれません。
建設業界は、現場に赴いて作業指示書や図面を共有するなど対面でやり取りをする慣例が根強い業界です。オンラインによる社内外のコミュニケーションや情報共有体制が構築されておらず、業務改善を実施したくても難しいケースが多く見られます。
実際にテレワークに代表される、多様で柔軟な働き方の導入は他業種と比べてなかなか進んでいません。総務省が公表した「情報通信白書令和3年版」によると、建設業のテレワーク実施率は全体平均の24.7%を大きく下回る15.7%でした。
※参考元:「低利益体質の建設会社が克服すべき5つの課題(THE GOLD ONLINE)」
前出の「最近の建設業を巡る状況について【報告】」によると、とくに60歳以上の技能者は全体の約4分の1を占めています。建設業界のスキルやノウハウは属人的なうえ、数年経てば大半の技能者は引退する可能性があるために、スキル承継やノウハウ習得の仕組みづくりは喫急の課題です。
スキルを公正に評価し処遇の向上につなげていく試みとして、「建設キャリアアップシステム(CCUS)」も始まっています。若い世代に定着してもらうためにも、CCUSの活用を検討しましょう。
10〜20年後の未来を見据え、建設業界は社会の一員としてビジネスの成長だけでなく、地球環境へ配慮することが求められています。「CO2排出量の削減」「建設廃棄物の削減」「生物多様性の保全」など、環境への取り組みも必要になりつつあるのです。
※参考元:「建設業の環境への取組み(一般社団法人 日本建設業連合会)」
ここでは、建設DXやワークフローシステムの概要について詳しく見ていきましょう。
建設DXとは、デジタル技術を導入することで前述した課題を解決することはもちろん、建設業界の仕事やビジネスそのものを変革することです。建設DXによって働き方改革の促進、生産性向上やナレッジの共有が可能になるために、数多くの企業が取り組んでいます。そのため、国も次のような取り組みを積極的に行い、建設DXを後押ししているのです。
※参考元:「建設DXとは?建設業界が抱える課題や注目のデジタル技術、成功事例を紹介!(ワークフロー総研)」
もともとワークフローとは、ビジネス上の情報や業務のやり取りなどの一連の流れのことを意味します。そしてワークフローシステムとは、たとえば申請書や稟議書などを電子化して申請・承認・決裁といった業務の流れを自動化できるシステムです。
ワークフローシステムの導入によって、プロジェクトの進捗状況を可視化できるほか、省力化・効率化が可能になります。ワークフローシステムは単体での提供だけではありません。グループウェアの機能として、あるいは基幹業務システムを担うERPパッケージに搭載されていることもあるので、自社の実情に合った製品を導入するのがおすすめです。
ここでは建設DXの観点から、ワークフローシステムの導入によって得られる効果について見ていきましょう。
生産性向上のポイントは、なるべく少ない労働時間で生産したり付加価値を創出したりすることです。ワークフローシステムの導入によって管理業務を効率化し情報共有が容易になれば、手戻りや伝達ミスを防止できるので生産性向上につながります。さらに従業員は、改善につながるアイデア出しに注力できるようになるかもしれません。
また、決済までのプロセスを迅速化できるため、意思決定のスピードを早めることが可能です。タイムリーな対応が可能になることから、機会損失を防げるようになるでしょう。
各種申請・承認がワークフローシステム内で完結するため、ペーパーレス化につながります。そのため印刷や郵送など、書類のやり取りにかかるコストを削減できます。書類が必要になった際に手作業で探す手間を省けるほか、保管スペースも不要になるため大幅なコスト削減につながります。
申請者の記入漏れなどのヒューマンエラーを防げるほか、可視化により透明性を確保できるため業務品質の向上も期待できます。申請フォームや申請ルートを一元管理できることから、申請先の間違いや承認者のスキップを防ぐことも可能です。その結果、社内の決裁ルール遵守の徹底など内部統制強化にもつながるでしょう。
建設プロジェクトでは、受注、施工、竣工に至るまでの工程で数多くの書類を取り扱い、社内外との確認作業だけでも膨大な手間と工数がかかります。ワークフローシステムを導入すれば工事情報の共有が可能になるため、予算申請や原価管理業務をスムーズに行えるようになるでしょう。
また、工事管理システムや建設業向けERPパッケージとワークフローシステムを連携することで、さらなる効率化が可能になります。
ワークフローシステムならいつでもどこでもシステム上で承認作業を行えるため、コミュニケーションの強化につながります。紙やメールによるやり取りが中心であった従来の方法では、場所や時間に縛られがちでコミュニケーションが上手くいかないことがありました。さらに、どのフローを誰が担当しているかを可視化できるため、チーム内でのスムーズなコミュニケーションも実現できます。
ワークフローシステムの導入は、ペーパーレス化による環境保全のほか働きがいの実現といった持続可能性の向上につながります。申請書類の作成や回覧、承認・決裁などをシステム上で行えるため、オフィス出社に限定されない働き方が可能になるのです。その結果、出産・子育てや介護など家庭の事情で出社できない従業員に、多様で柔軟な働き方という選択肢を提案できるようになります。
建設DXにおいては、担当者の知識・経験に依存した属人性から脱却するため、業務の標準化や平準化の実現も重要です。ここでは、建設業界におけるワークフローシステムの活用例について見ていきましょう。
活用例の1つめは、設計プロセスの自動化です。最適解を探るAIの力を借りることで、設計プロセスの簡素化と標準化が可能になりました。3Dモデルや図面を自動生成できるため、人件費の削減や業務スピード向上などの効果が見込めるのです。
設計プロセスの自動化は、建設プロジェクト事業の妥当性を把握する検証を大幅に効率化できるとして期待されています。また、AIで構造設計の安全性を判定するシステムを使えば、施主に対して限られた期間内に複数の提案をすることも可能です。
活用例の2つめは、内部の承認プロセスの効率化です。これにより、上長の承認が得られるまで作業が止まるといった事態を避けられます。作り直しが必要なケースでも、システム内で作業を完了次第スムーズに承認に回せる点がポイントです。たとえ承認者が遠方にいても、ワークフローシステムにアクセスできればすぐにでも決済できます。
建設プロジェクトではいろいろな業者が絡むため、外部とのやり取りはシステム統合が進まないことも多いでしょう。だからこそ社内の承認プロセスの効率化は不可欠だと言えます。
活用例の3つめは、品質管理の改善です。プロジェクトの計画、設計、工事、完成後の維持・保全に至るフェーズごとに明確なワークフローを定義することで、施主の要求事項を満たしているかどうかの「品質管理」がしやすくなります。
情報共有や期限の厳守が容易になるため、建設プロジェクトの品質管理を大幅に改善できるでしょう。
活用例の4つめは、進捗管理の効率化です。建設プロジェクトの進捗管理に大きな変革をもたらすとして注目されているのが、CADの後継となるBIM(Building Information Modelling)です。
BIMでは、共有データベースと共通のデータ環境のもと、3Dモデルを共有しながら全ての関係者が共同で作業できるようになります。3次元データに時間軸やコスト情報を付加した「4D」あるいは「5D」シミュレーションでは、時間、人、工程データを連携することで施工手順や納まりをより具体的に検証することが可能です。
活用例の5つめは、安全管理の改善です。安全管理プロセスを標準化し、チームメンバーに安全性プログラムのチェックリストを割り当てます。安全検査を実行し、施工において問題のある領域を解決すれば、危険な状況を事前に回避できるようになるでしょう。
※参考元:「施工安全検査とインシデント(Autodesk)」
建設DXによって業務に変革を起こすためには、デジタル化が大前提です。業務の属人性が解消されると、自分の都合の良い場所で働けるようになります。会社に戻らなくても現場から各種申請ができるようになれば、従業員に精神的なゆとりが生まれるほか、ムダな残業時間も減るでしょう。
ワークフローシステムを導入して、望ましい未来を創る一歩を踏み出してはいかがでしょうか。