2022年5月12日
コロナ禍で開催されたオリンピック・パラリンピック閉幕後、建設業界の課題が益々浮き彫りとなりました。主な課題としては、長年いわれている人手不足や高齢化などが挙げられます。その問題解決のためには、労働環境の改善や業務の効率化が不可欠となります。
そこで今回は、オリパラ後の建設業界の動向や、新型コロナの影響、建設業界の直近課題、IT化の必要性について解説します。
建設業界にとって、IT化(DX化)に伴うAI・IoTなどの導入による業務の改善が必至であることがわかりますので、建設業界に従事している方やこれから従事予定の方は必見です。
2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピックが閉幕した後、次に待ち受けるビッグプロジェクトは、主に以下の通りです。
それぞれの概要を解説します。
2005年の愛知万博以来、20年ぶりの日本開催となる2025大阪万博は、関西におけるビッグプロジェクトとなります。その規模は以下の通りです。
※参考元:
「2025年日本国際博覧会(略称「大阪・関西万博」)基本計画」公益社団法人2025年日本国際博覧会協会
「2025年に開催される日本国際博覧会(大阪・関西万博)に関連するインフラ整備計画(案)の概要」内閣官房
「関西万博・IR予定地の整備費2300億円上ぶれ 想定の甘さ露呈」朝日新聞Digital
また、大阪万博に関連する事業として、以下などの工事が進められています。
本来ならばIR(統合型リゾート)も同時開幕する予定でしたが、コロナ禍の影響により、IRについては大幅に遅れて開幕することとなりました。
リニア中央新幹線は、現在の東海道新幹線の次世代を担う鉄道となります。その概要を下表にまとめます。
項目 | 内容 | ||
---|---|---|---|
建設線 | 中央新幹線 | ||
区間 | 東京都~大阪市 | ||
走行方式 | 超電導磁気浮上式 | ||
最高設計速度 | 505km/時 | ||
建設概算額 | 9兆300億円 | ||
区間別データ | 区間 | 品川・名古屋間 | 東京・大阪間 |
路線延長 | 286km | 438km | |
所要時間 | 40分 | 67分 | |
建設費 | 5兆5,235.5億円 | 9兆300億円 | |
想定開業年次 | 令和9年(2027年) | 令和27年(2045年)より 最大8年間前倒し |
※参考元:「リニア中央新幹線の概要」国土交通省
なお、リニア中央新幹線計画の静岡工区において、大深度地下トンネル工法に伴う大井川の減水問題などで工事は一時中断し、開業年次は大幅に遅れる模様です。
IRはIntegrated Resortの略で、統合型リゾートのことです。
IRは、「特定複合観光施設区域整備法」(以下、「IR整備法」)という法律により規定され、「特定複合観光施設」となります。
特定複合観光施設は、「IR整備法」第2条第1号~第6号までに掲げる施設から構成されます。第2条の一部を下記に抜粋します。
※参考元:「特定複合観光施設区域整備法」e-GOV 法令検索
カジノで得た収益を活用して、以下などを担います。
現状、現実味のあるIRとして残っている事業は、大阪・和歌山・長崎のIRとなります。その他の市は、住民の賛同を得られず大半が撤退した形となっています。
IR計画案を下表にまとめました。
大阪 | 長崎 | |
---|---|---|
運営事業者 | MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスを中核とする株式会社 | カジノ・オーストリア・インターナショナル・ジャパン |
誘致場所 | 夢洲 (大阪市此花区) |
ハウステンボス (長崎県佐世保市) |
開業時期 | 2029年秋~冬 | 2027年度(最短) |
年間来訪者 | 約2,000万人 | 約840万人 |
年間経済波及効果 | 約1兆1,400億円 | 約3,200億円 |
年間入場料 | 約1,060億円 | 約300億円 |
※参考元:「<独自>和歌山IR 区域整備計画の原案判明」産経新聞
東京オリンピック閉幕後にも、上記で解説した大阪万博開催やリニア中央新幹線、IRなどのビッグプロジェクトが控えていますが、新型コロナの感染長期化により様々な影響を受けています。
例えば、受注数の減少や作業従事者の減少、自治体の予算削減による公共工事の中止などです。
建設業界では、新型コロナの感染長期化により受注数が減少傾向にあります。コロナ禍において予定していた工事が中止となり、新規受注を獲得できずに経営悪化に陥るケースが増加しています。
主要な上場ゼネコン55社の2020年3月期の繰越工事残高は16兆5,910億円(前期比2.5%減)となり、7期ぶりに前期を下回りました。受注数の減少は下請企業となる中小建設会社にも影響を与えており、徐々に破綻件数が増加しています。
また、新型コロナの影響で以下のような事態となり、民間工事案件の計画見直しや取りやめが頻発し、中小建設会社へシワ寄せがいきました。
受注数の減少により、中小建設会社は職人などの作業従事者を雇用し続けることができず、解雇に踏み切ったケースも多発しています。建設業界の大きな課題として、作業従事者不足が問題となっています。
地方自治体においても税収減少により予算確保がままならず、新規建築計画などの見直しや中止が相次いでいます。例えば以下などです。
建設業界の直近の課題として以下などが挙げられます。
建設業界における一番の課題は、建設業就業者数の減少と高齢化が著しい点です。
下図は、建設業就業者数の推移を表したものです。
※参考元:「2020建設業ハンドブック」一般社団法人日本建設業連合会
1997年に685万人いた建設業就業者数はピークを迎え、その後減少し続け、2019年にはピーク時比72.8%の499万人になりました。その中で、1997年ピーク時464万人いた建設技能者は、2019年にはピーク時比70.5%の327万人になりました。
また、下図は建設業就業者の高齢化の推移を表したものです。
※参考元:「2020建設業ハンドブック」一般社団法人日本建設業連合会
2019年時点の全産業における55歳以上の就業者割合が30.5%に対し、建設業就業者割合は35.3%あり、高齢化の割合は高くなっています。
同様に、全産業における29歳以下の就業者割合が16.6%に対し、建設業就業者割合は11.6%あり、若年者の割合は低くなっています。
建設業の安定的な人材確保を維持し続けるためには、若年者の建設業界への入職促進とスムーズな世代交代が必要です。
建設業界は、日報、報告書、設計図書などの紙ベースでの管理が多用され、アナログ的な業務が多く残っている業界です。紙ベースでの管理の場合、情報共有する際に時間も共有する必要があり、業務の属人化*1につながります。
工事現場においては人出不足による業務の属人化が進んでおり、作業員などの担当業務を監督者が担当しているケースもあります。例えば、建設機械の操作を伴う業務で操作できる人が限られるケースなどです。
その改善策として、IT化を図り、見える化、共有化を促進して、業務の効率化を行う必要があります。
*1業務の属人化:業務の進め方や進捗状況などを特定の担当者しか把握していない状況のこと。いわゆる「ブラックボックス化」した状態
建設業界は、他の業界と比較して相対的に労働環境が悪くなります。その改善を図らなければ、人手不足や高齢化に対する根本的な解決は困難といえます。
下図は、建設業や製造業、調査産業計の労働時間の推移を表したものです。
※参考元:「2020建設業ハンドブック」一般社団法人日本建設業連合会
建設業は他産業よりも労働時間が長く、2019年時点の労働時間は、調査産業計が1,734時間に比較して建設業は2,048時間となり、300時間超の長時間労働となっています。
下図は、男性労働者(全産業・製造業・建設業)の年間賃金総支給額の推移を表したものです。
※参考元:「2020建設業ハンドブック」一般社団法人日本建設業連合会
グラフを見ると、建設業における男性労働者の賃金は、2000年以降において他産業との格差が拡大傾向にありましたが、2012年以降においては上昇に転じて賃金格差は縮小傾向にあります。
下図は、各業界の就業者中に占める女性の比率の推移を表したものです。
※参考元:「2020建設業ハンドブック」一般社団法人日本建設業連合会
グラフを見ると、全産業の就業者に占める女性の割合は44.5%ですが、建設業の就業者に占める女性の割合は16.8%と約3分の1強となり、女性の割合が低い業界であることがわかります。
建設業界では、人手不足の解消や業務効率化を促進するため、DX(Digital Information)化・IT化が求められています。そこで国土交通省は、平成28年に建設現場の生産性向上を図る「i-Construction」を公表しました。
「i-Construction」は、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)の活用による生産性向上が大きな柱になります。ICTにより建設現場から得られるビッグデータを効果的に活用する必要があるため、近年の技術開発が著しいAIやIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の活用が必要です。
また、建設現場の喫緊の課題である熟練技能者の経験による技・ノウハウ・勘の伝承を効果的に実施する必要があります。さらに、ビッグデータを管理・連携するために、BIMやCIMなどの時空間的なデータ管理を整えた3次元情報基盤の構築が不可欠となります。
建設現場の現場監督や作業員にとってAIは現場に必要で、様々な情報・ノウハウを提供してくれる便利なツールになります。建設情報を必要とする技術者にタブレットなどの端末機器を持たせれば、作業現場を目の前にして、必要な図面や仕様書などを端末画面上で確認することができます。
また、報告書や日報、現場写真の整理なども同時にタブレットなどの端末機器の画面上で行うことができれば、作業時間の削減にもつながります。したがって、建設現場におけるAIやIoTの導入は人手不足解消に大きく貢献し、業務の効率化を図れるといえるでしょう。
さらに、テレワークの実施により、工事現場の要所にカメラを設置すれば、現場から離れた地点においても現場の作業員とのコミュニケーションや現場状況の確認が可能です。そのため現場監督が現場に行かなくても十分に業務をこなすことができ、移動時間の削減や移動コストの削減にも貢献できるでしょう。