2022年4月27日
少子高齢化社会の影響により労働者人口は減少傾向にあり、建設業界でも「人手不足」が深刻な問題となっています。建設業界は人々の生活を支える仕事を担っていますが、インフラの維持・改善や地域活性化に向けた施策などが重なり、労働者の数は足りていません。そんな中、国土交通省は2024年4月施行の施策として「建設業の働き方改革」を示しています。当記事では、働き方改革の内容を詳しく解説していきます。
そもそも働き方改革(働き方改革関連法)は、2019年より順次施行されています。ただし建設業界は労働環境の改善に時間がかかるため、5年間の猶予が与えられていました。そのため、建設業界において働き方改革関連法が施行されるのは2024年からとなっています。
なぜ建設業界は5年間も猶予が与えられたのかというと、建設業界が抱える現状の課題が関係しています。その課題とは、主に3つ。冒頭でお伝えした「深刻な人手不足」に加え、「就業者の高齢化」と「長時間労働」が挙げられます。それぞれの課題について、深掘りしてみましょう。
人手不足の原因は「少子高齢化問題」が関係しています。とはいうものの、少子高齢化は建設業界に限った話ではありません。
建設業界における人手不足は「労働者の減少」と「業界としての需要拡大」の返りによって発生しているのです。
2021年に行われた東京オリンピックは建設業界に様々な仕事をもたらしました。そして建設業界は、今後も需要の拡大が予想されています。
2025年の大阪万博やその他公共工事など、建設業界の仕事は豊富にあります。業界の需要は日に日に拡大していく中、労働者の人口は減少しています。その理由として挙げられるのが「長時間労働」や「低賃金」などの労働環境の問題です。
つまり、労働環境の改善が労働人口の増加にもつながってくると言えます。そのため建設業界全体として前向きに改善していくことが重要となります。
「建設業界は深刻な人手不足である」と説明しましたが、実は50代以上の建設業従事者数は以前とあまり変わりありません。それでも労働人口が不足しているということは、20〜30代の若い世代の労働者が激減していることを意味します。その理由はやはり「労働時間の長さ」「休日の少なさ」「給料の低さ」などが挙げられます。
それに加えて建設業界は、経験や知識が重要な世界です。ときには先輩の雑務ばかり担当することもあり、面白くないといった意見も少なくないようです。そのため、若手が活躍できる場や安心して働ける環境整備が今後さらに必要となってきます。
現場作業は昼夜問わず進められます。人手不足が相まって「長時間働かなければ仕事が終わらない」という状況の企業も多いでしょう。
働き方改革が行われる以前は残業の上限がない会社も多く、従業員への負担がかかりやすい状況でした。今後施行される働き方改革では、残業時間に制限を設けていますので、長時間労働による従業員への負担は大幅に改善されると期待できるでしょう。
建設業界の課題を整理したところで、続いて「働き方改革」の内容を説明します。
今回は「長時間労働」「給与・社会保険」「生産性向上」に関する取り組みを紹介します。
長時間労働の是正に関する取り組みとして、以下の2点が挙げられます。
まず一つ目は「適切な工期設定の推進」です。
今後は「適正な工期設定等のためのガイドライン」の通り、各発注工事の実情を踏まえて検討し、受発注者双方の協力による計画が必要になります。無理が生じる計画は避け、余裕を持った工事スケジュールが大切です。
そして二つ目は「週休2日制の後押し」です。
今までは毎日稼働している現場が多く、とくに施工管理者への負担が大きくかかっていました。今後は工事期間に休日を設けたり、現場の管理体制を見直したりなどの工夫が必要になります。
給与・社会保険に関する取り組みとして、以下の2点が挙げられます。
まず一つ目は「技能や経験にふさわしい給与の実現」です。
建設業界は経験年数や役職で給与が決まりやすく、若年層の給与はあまり高くない状況です。
しかし、技能・経験にふさわしい処遇が実現するよう、建設技能者の能力評価制度が策定されたため、今後は資格や現場経験など業務難易度から給与が決定するようになります。
そして二つ目は「社会保険の加入」についてです。
社会保険に未加入の建設企業は、建設業の許可・更新を認めない仕組みへと今後変化していきます。
また、全ての発注者に対して、下請け業者を含めた工事関係者を社会保険加入業者に限定するよう要請されます。つまり、社会保険に加入していない事業者は発注がもらえない仕組みになるということです。労働者を守ることが当たり前な環境として変化しつつあると言えるでしょう。
生産性向上に関する取り組みとして、以下の2点が挙げられます。
まず一つ目は「建設生産プロセスの見直し」です。
設計を例にあげると、従来はCADソフトを使用し、1枚ごとに作図していました。しかしBIMやCIMの登場により、素早く正確な作図が可能になっています。
このように、従来の方法よりも効率的に作業が行えるため、BIMやCIMが設計ソフトのスタンダードになる日も遠くはありません。
そして二つ目は「申請手続きの電子化」です。
現在紙で行われている各種申請手続きは、少しずつデータ化されます。書類の保管・管理に要する手間が省けるので、事務作業の効率化が図れるでしょう。
建設業界で働き方改革を実現するために、企業がすべき行動について紹介します。
一つ目は「残業時間の管理体制を整える」ことです。
改正労基法36条4項により、時間外労働の上限時間は「原則として月45時間、年360時間」となりました。
また、臨時的な特別の事情があって残業する場合(特別条項)であっても、以下の規定内に調整しなければなりません。
これに違反した場合は、罰則(6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金)も定められているため、企業側は残業の管理体制を整える必要があります。
従来であれば残業した分だけ申請できた企業も多かったでしょう。しかし今後は残業をするための事前申請や、残業が発生しないようなマネジメントが重要になります。そのためマネージャー職の方は、今まで以上にチームメンバーの管理が重要となるでしょう。
二つ目は「業務の質を向上させる取り組みの実施」です。
残業時間の上限が設けられたため、今まで以上に効率的な業務が求められます。しかしながら従業員のレベルで業務改善を行うといっても限界があるでしょう。そこで大切なのが、企業側の取り組みです。設計チームであれば設計ソフトの「BIM」を導入したり、操作が学べる社内講習を開催したりすることも効果的です。
また、施工チームであれば先方との打ち合わせ担当と現場担当を分け、ひとつのことに集中できる環境づくりを行うことも大切です。
三つ目は「人的コストが削減できるシステムの導入」です。
建設業界の仕事はアナログな部分が多く、属人化している仕事も多々あります。だからこそ人の手で行っていた作業を自動化し、従業員の負担を減らす工夫が必要になるでしょう。
たとえば積算業務を簡略化するシステムの導入や、社員の勤務実績をリアルタイムで把握できる勤怠管理システムの導入などが重要になってきます。
このように従業員の業務を一部自動化することで、より効率的な仕事が可能になるでしょう。
2024年に施行される建設業の働き方改革は、上限規制に違反した場合は罰金という罰則が科される恐れもあるため、労働時間の管理方法の見直しと改善が求められます。難しい取り組みのように感じますが、この改革は建設業における転換期です。企業と従業員の双方が一丸となり、この問題と向き合うことが大切になるでしょう。