2022年4月1日
建物の設計を担当する建築士には「一級建築士」「二級建築士」「木造建築士」の3種類があります。その中でも多いのが、一級建築士と二級建築士です。一級と二級では担当できる業務範囲が異なりますが「実際にどのような違いがあるのか?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。そこで今回は一級建築士と二級建築士の違いを比較し、それぞれの資格の特徴を解説します。設計業務に興味のある方や将来建築士になりたい方は必見です。
そもそも建築士とは、建築物の設計および工事監理を行う仕事です。その中でも一級建築士と二級建築士は、国土交通大臣から認可を受けた国家資格者を指します。それぞれの業務内容に大差はありませんが、一級と二級では担当できる「物件規模」が異なります。
そこで以下では、それぞれの特徴について解説します。
二級建築士は、設計できる建物の規模と構造に制限があります。戸建住宅などの小規模な建造物は可能ですが、学校・病院・マンション・高層ビル・商業施設などの大規模物件は設計できません。
なお、二級建築士の業務制限は以下のように定められています。
構造種別 | 木造、その他右欄以外の構造 | 鉄筋コンクリート造、鉄骨造、石造、れんが造、コンクリートブロック造、無筋コンクリート造 |
---|---|---|
高さ | 「高さが13m」または「軒の高さが9m以下」 | |
延べ面積 | 30~1,000㎡ | 30~300㎡ |
一級建築士は、二級建築士のような制限はありません。そのため物件規模を問わず設計を担当できます。
一級建築士の資格は、他の国家資格(施工管理技士など)と比較しても非常に難易度の高い資格になるため、設計だけでなく施工やデベロッパーなど、幅広い分野で重宝されます。ただし、二級建築士よりも担当可能な物件の規模が大きい分、スキルや知識がより求められます。
また、構造設計一級建築士や設備設計一級建築士など、さらに専門的な業務を行う場合は一級建築士の取得が不可欠となります。
一級建築士と二級建築士の共通点は、実際の業務内容です。物件規模によって必要な申請などは異なりますが、実際の業務フローはあまり変わりません。
そこで以下では、一級建築士と二級建築士の仕事内容について紹介します。
「設計業務」とは、建物のコンセプトや構造、仕上げ材など、建築物に関わるすべての設計を行います。一級建築士と二級建築士では物件規模は異なりますが、意匠・構造・設備の3つを設計するという点では同じです。設計業務では主に以下の業務を行います。
設計業務と聞くと「作図」のイメージが強いかもしれません。しかし、作図は建築士が行う業務のひとつにすぎず、作図を行うためにはクライアントに何度もヒアリングする必要がありますし、プランに問題ないか検証する工程も大切になります。また、実際に施工する会社を選定し、予算内にプランを調整する必要もあります。
そのため、柔軟なアイデアはもちろんのこと、プロジェクトマネジメント能力やタスク管理能力が問われる仕事と言えるでしょう。
監理業務は、工事が始まる準備から竣工までの工程を監理する仕事です。現場で起きた問題点に対し、設計的アプローチをもとに解決策を考案します。
また、定期的に検査を行い、工事の進捗確認を行います。まれに設計と監理を分ける場合がありますが、多くの物件は設計者が以下の業務を担当します。
一級建築士および二級建築士は、設計責任者として現場確認の機会が多いでしょう。業者やデベロッパーとの定期的な打ち合わせが発生することも多々あります。細かな業務が増えてくるので、スケジュール管理が重要になります。
一級建築士と二級建築士の資格では、どのような違いがあるのでしょうか。以下ではそれぞれの違いについて解説します。
一級建築士と二級建築士の受験資格は以下の通りです。
※入学年が平成21年度以降の場合、指定科目を修めて卒業した者が対象。入学年が平成20年度以前の場合、建築または土木の課程を修めて卒業した者が対象。
一級建築士同様「学歴」は学校の入学年が「平成21年度以降の者」と「平成20年度以前の者」とでは要件が異なります。また、二級建築士の場合は受験時に「実務経験」が必要になりますので注意が必要です。
それぞれの詳細は、公益財団法人建築技術教育普及センターのホームページにてご確認ください。
https://www.jaeic.or.jp/index.html
一級建築士と二級建築士の試験概要は以下の通りです。
一級建築士の試験には「学科試験」と「設計製図試験」があります。学科試験は四肢択一式で、下記の出題科目があります。
設計製図試験では、事前に公表される課題に関して設計製図を行います。なお、出題数は1問です。
一級建築士の試験には「学科試験」と「設計製図試験」があります。学科試験は四肢択一式で、下記の出題科目があります。
設計製図試験では、事前に公表される課題に関して設計製図を行います。なお、出題数は1級と同じく1問です。
一級建築士と二級建築士の合格率は以下の通りです。
全体で見ると、合格率は10%前後です。国家資格の中でも非常に難易度の高い試験であることがわかります。
全体で見ると、合格率は20%前後です。一級よりは合格率は上がりますが、やはり難易度の高い試験と言えるでしょう。
一級建築士と二級建築士は同じ「建築士」ですが、実は免許の発行元が異なります。
一級建築士は国、二級は都道府県が発行します。発行元の違いからも、一級の方が専門性の高い資格であることがわかります。
一級建築士と二級建築士の収入の違いですが、正直なところ「所属する企業」によって大きく異なります。そのため「一級建築士を取得すると、年収が数十万円アップする」ということは断言できません。
しかし、二級建築士よりも一級建築士の方が幅広い業務に携われることは事実です。年収を含めたキャリアアップがしやすいのは一級建築士であると言えるでしょう。
一級建築士と二級建築士は、それぞれ難易度の高い資格であるだけに、資格を取得すると様々なメリットが得られます。
以下では、一級建築士と二級建築士のメリットについて紹介します。
二級建築士のメリットは主に以下が挙げられます。
まず一つ目は「小規模物件の設計担当になることができる」点です。資格を有していない設計者の場合、作図や模型作成などの業務を担当します。クライアントと打ち合わせする機会はあっても、資格を保有している設計者のフォロー役がほとんどです。
そのため二級建築士の資格を保有していると、小規模物件の設計における主担当者になることができます。責任感が必要ですが、さらにやりがいを感じられるでしょう。
次に二つ目は「一級建築士の受験資格が得られる」点です。上記でも説明した通り、二級建築士の資格を持っていると、一級建築士の受験資格が得られます。大きな物件に挑戦したい方にとっては、大きな利点になります。
そして三つ目は「転職に有利になる」点です。二級建築士は難易度の高い国家資格で、設計以外の分野からも評価されていますので、転職の際の条件交渉なども有利に働くでしょう。
一級建築士のメリットは主に以下が挙げられます。
まず一つ目は「幅広い物件を手がけることができる」点です。上記で解説した通り、二級建築士には設計できる物件に限りがありますが、一級建築士は制限がないためどんな物件でも設計に携わることができます。
次に二つ目は「顧客からの信頼が得られやすい」点です。一級建築士は、建築系の試験の中で最難関といっても過言ではありません。その試験の合格者となると、幅広い知識を有したエキスパートと認識されますので、顧客や関係者からの信頼は厚いはずです。
そして三つ目は「転職に有利になる」点です。総合建築事務所やゼネコンに就職する方が多い一方で、意匠に特化したアトリエ系の事務所や、独立して活動する方もいます。他にもデベロッパーや官公庁・一般企業の施設管理部などでも必要とされており、一級の資格を持っていると転職の幅が広がるでしょう。
一級建築士と二級建築士は、担当できる業務範囲が異なります。二級建築士には設計できる範囲が限られていますが、一級建築士は幅広いジャンルの業務に携われます。とはいうものの、設計者が不足している現在、どちらも需要のある資格と言えます。スキルアップを検討されている方や、転職を検討されている方はぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。ただし、二級建築士は実務経験が必要になるので、まずは受験要項を確認してみましょう。