2022年1月25日
東日本大震災を契機として、節電・省エネルギー化・環境配慮などに対する関心は大きくなっています。その中で、建築分野においては、長寿命化・リニューアル・ZEBなどの社会的要請に応えるのが、建築設備技術者です。
建築設備技術者の中でも、建築設備士は、建築士に対して建築設備に関するアドバイスができる有資格者として法律上認定されています。
この記事では、建築設備士の概要や建築設備士試験の概要、建築設備士取得のメリットについて解説します。
建築設備士は、建築設備全般における知識かつ技能を有し、高度化・複雑化した建築設備の設計・工事監理における適切なアドバイスを建築士に対して行える資格者です。
建築設備士について、建築士法に定義や設計及び工事監理、業務に必要な表示行為について記されています。
※参考元:「建築士法」e-GOV法令検索
建築設備に関する専門的な立場から、建築士に対して建築設備設計の助言を行い、建築物の安全と品質向上を図ります。建築士は、建築設備士の助言を受けた場合、建築確認申請書などの書類にその旨を明確に記載する規定があります。
また、建築設計事務所が設計や工事監理の受託契約を締結する場合、業務に従事する建築設備士の氏名を書面に記載することが建築士法で規定されています。
建築士に対する具体的な助言内容は、電気や給排水、空調設備などの設備設計が中心となります。
建築設備に関する専門的な立場から、建設工事現場において、工事監理や工事に対する助言を行い、建築物の安全と品質向上を図ります。
また、建築設備士自身が電気工事や管工事において、専任技術者や主任技術者になる資格があります。
建築設備士が自ら建築物自体の設計を行うことはありませんが、建築士から求められた場合、建築設備の設計を行います。
建築設備士になるには、公益財団法人建築技術教育普及センターが実施する建築設備士試験に合格する必要があります。
建築設備士制度は、建築設備(空調・換気、給排水衛生、電気など)の高度化・複雑化が進捗する中、建築設備に係る設計・工事監理において的確に対応するために制定されました。
※参考元:「建築設備士(制度全般)」公益財団法人建築技術教育普及センター
建築設備士の受験資格は下表の通りです。
学歴・資格等 | 建築設備に関する実務経験年数 | ||||
---|---|---|---|---|---|
最終卒業学校または資格 | 過程 | ||||
学歴 + 実務 |
一 | 大学(新制大学、旧制大学) | 正規の建築、機械、電気又はこれらと同等と認められる類似の課程 | 卒業後2年以上 | |
二 | 短期大学*、高等専門学校、旧専門学校 | 〃 | 〃4年以上 | ||
三 | 高等学校、旧中等学校 | 〃 | 〃6年以上 | ||
四 | イ | 専修学校(専門課程) (修業年限が4年以上かつ120単位以上を修了した者に限る) |
〃 | 〃2年以上 | |
ロ | イに掲げる専修学校(専門課程)以外の専修学校(専門課程)(修業年限が2年以上かつ60単位以上を修了した者に限る) | 〃 | 〃4年以上 | ||
ハ | イ・ロに掲げる専修学校(専門課程)以外の専修学校(専門課程) | 〃 | 〃6年以上 | ||
五 | イ | 職業能力開発総合大学校、職業能力開発大学校(総合過程、応用過程又は長期過程) | 〃 | 〃2年以上 | |
ロ | 職業訓練大学校(長期指導員訓練課程又は長期過程) | ||||
六 | イ | 職業能力開発総合大学校、職業能力開発大学校又は職業能力開発短期大学校 (特定専門課程又は専門課程) |
〃 | 〃4年以上 | |
ロ | 職業訓練短期大学校(特別高等訓練課程、専門訓練課程又は専門課程) | ||||
七 | イ | 高等学校を卒業した後、職業能力開発校、職業能力開発促進センター又は障碍者職業能力開発校(普通課程) | 〃 | 終了後6年以上 | |
ロ | 高等学校を卒業した後、職業訓練施設(職業訓練短期大学校を除く。)(高等訓練課程、普通訓練課程又は普通課程) | ||||
資格 + 実務 |
八 | イ | 一級建築士 | 2年以上(資格取得の前後を問わず、通産の実務経験年数) | |
ロ | 1級電気工事施工管理技士 | ||||
ハ | 1級管工事施工管理技士 | ||||
ニ | 空気調和・衛生工学会設備士 | ||||
ホ | 第1種、第2種又は第3種電気主任技術者 | ||||
実務のみ | 九 | 建築設備に関する実務の経験のみの者 | 9年以上 | ||
十 | 区分(一)から(九)までと同等以上の知識及び技能を有すると認められる者 |
※参考元:「令和3年建築設備士試験の案内」公益財団法人建築技術教育普及センター
*専門職大学における前期課程の修了者は、短期大学の卒業者と同等とします。
建築設備に関する実務経験として認められるもの・認められないものの区別は、下表の通りです。
実務経験の認否 | 実務経験の内容 |
---|---|
実務経験として 認められるもの |
|
実務経験として 認められないもの |
|
※参考元:「令和3年建築設備士試験の案内」公益財団法人建築技術教育普及センター
第一次試験と第二次試験があります。
令和3年試験より、受験申込みは、原則としてインターネットによる受付のみとなります。
第一次試験は、マークシート四肢択一方式です。建築法令集の持ち込みが可能です。
記述式問題では、建築物の条件が与えられ、建築設備基本計画を文章で説明します。
製図問題では、設備プロット図や系統図などを作図します。
建築設備基本計画及び建築設備基本設計製図:5時間30分
実施年 | 第二次試験(設計製図)の課題 |
---|---|
平成29年 | 湖畔に建つホテル |
平成30年 | 小都市に建つ市庁舎 |
令和元年 | スポーツクラブのある複合商業施設 |
令和2年 | シェアオフィスのある事務所ビル |
令和3年 | 市街地に建つホテル |
※参考元:「建築設備士試験データ」公益財団法人建築技術教育普及センター
札幌市、仙台市、東京都、名古屋市、大阪府、広島市、福岡市、沖縄県
建築設備士の合格基準は、以下の通りです。
全体の合格基準:60%以上を獲得しても、3科目の点数が基準値を大きく下回る場合、不合格になります。
建築設備士の最近5か年間における実受験者数・合格者数・合格率を挙げると下表の通りです。
平成29年 | 平成30年 | 令和元年 | 令和2年 | 令和3年 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
第一次試験 | 実受験者数 | 2,907人 | 2,983人 | 2,800人 | 2,256人 | 2,900人 |
合格者数 | 841人 | 930人 | 749人 | 650人 | 950人 | |
合格率 | 28.9% | 31.2% | 26.8% | 25.7% | 32.8% | |
第二次試験 | 実受験者数 | 1,112人 | 1,242人 | 1,123人 | 916人 | 1,158人 |
合格者数 | 580人 | 646人 | 610人 | 379人 | 606人 | |
合格率 | 52.2% | 52.0% | 54.3% | 41.4% | 32.8% |
※参考元:「建築設備士試験データ」公益財団法人建築技術教育普及センター
最近5か年間の平均合格率は、17.8%です。
建築設備士の資格を取得することにより、下記のメリットがあります。
建築設備士の資格保持者は、建築士試験(一級建築士・二級建築士・木造建築士)について、実務経験が無くても受験資格が与えられます。
ただし、一級建築士登録の場合、建築設備士資格取得後4年の実務経験が必要です。
設備設計一級建築士講習の受講資格となる実務経験について、建築設備士として建築設備の設計・工事監理の際に建築士にアドバイスを与える業務を行っている場合、一級建築士になる前に行った当該業務も実務経験として認められます。
また、一級建築士として登録し、かつ建築設備士の資格も有する場合、実務経験の状況を考慮した上で設備設計一級建築士講習の講義及び修了考査において、「建築設備に関する科目」が免除されます。
建築設備士は、所定の実務経験(1年以上)を有する場合、電気工事業・管工事業について下記事項の対象資格となります。
国土交通省における測量・建設コンサルタント等業務競争参加資格審査において、建築関係建設コンサルタント業務の審査対象となる資格として一級建築士や建築設備士が挙げられています。
有資格者数の点数算定では、一級建築士と同様に5点が与えられます。
建築設備士は、5年以上の実務経験を有する場合、防火対象物点検資格者講習について受講資格が与えられます。
グリーン購入法(国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律)に基づく「環境物品等の調達の推進に関する基本方針」の中で、国・独立行政法人等が「省エネルギー診断」の調達を実施する際の判断基準となる技術資格の一つに「建築設備士」が規定されています。
建築設備士は、登録建築設備検査員講習について、受講資格が与えられます。また、受講科目のうち「建築設備定期検査制度概論」や「建築学概論」をはじめとする8科目が免除されます。
建築設備士は、防火対象物点検資格者講習について、受講資格が与えられます。
行政機関などにおいて、ESCO事業*を導入するにあたり、設計役割を担当する応募者の有すべき資格の一つに建築設備士を定めた実績があります。
*ESCO(Energy Service Company)事業:
省エネルギー改修にかかる費用を、改修後の光熱水費の削減分で賄う事業。省エネ改修を行う事業者の場合、初期費用がかからずハードルが低くなるメリットがあります。しかし、省エネ改修によって得られるコスト減少効果がしばらく得られなくデメリットがあります。
以上、建築設備士の概要や建築設備士試験の概要、建築設備士取得のメリットについて解説しました。
建築設備士を取得すると、大規模な建築物の設備に対して、専門的な立場からアプローチすることができ、建築設備会社や建築設計事務所、建設会社、建築設備メーカーからの需要も高くなります。
また、建築設備士を取得すると、様々な資格試験の受験資格や受講資格などを得ることができ、他の建築関連資格を取得することも容易になります。
建築設備士の資格取得を検討されている方は、積極的に挑戦されてみてはいかがでしょうか。