建設業の離職率は高い?職種別に解説
働き方
離職率

建設業の離職率は高い?職種別に解説

2021年5月9日

建設業の離職率は、建設会社に就職して3年(平成26年~平成28年)経過した場合、以下のデータを国土交通省が公表しています。
・高校卒業者:47.7%
・大学卒業者:30.5%


このデータは以下の全産業の平均データと比較しても、高校卒業者の場合、かなり高くなることがわかります。
・高校卒業者:40.8%
・大学卒業者:32.2%


そこで当記事では、建設業の職種や建設業全体の離職率、各職種の離職率の概要について解説します。職種により、離職率に大きな違いがあることが分かるでしょう。

 

建設業とは

建設業には様々な職種が介在し、それぞれ重要な役目を担っています。具体的には、施工管理・設計・営業・技術開発・事務管理・情報システムなどの部門となります。それぞれの業務内容を解説します。

施工管理

工事現場において、工程管理・品質管理・原価管理・安全管理・環境管理の5大施工管理などを中心に業務を行う職種です。工事業種としては、建築・土木・設備と大きく3分野に分類され、以下のように業務内容は多岐にわたります。
・工事現場に出入りする多種多様な専門工事業者の作業進捗状況
・基礎工事・躯体工事などの各工事の工程管理
・工事現場への建材の手配や搬入・搬出の管理
・実行予算に対する現場経費の管理
・施主や建設コンサルタント・建築設計事務所などとの打合せ
・工事現場における労働災害の防止や現場環境の改善・管理

<建築施工管理>

建築施工管理の対象は、マンション・オフィスビル・ホテル・学校などの教育文化施設・病院などの医療福祉施設・商業施設などの建築物となります。それらの建築物の設計段階から携わり、建築物の着工から竣工、メンテナンスにわたるまで管理します。
最近では、建設現場においてもAI*1やIoTI*2、ICT*3などを活用しながら業務の効率化を図る動きとなっています。また、BIM*4といわれる3次元立体モデルを活用し、設計管理・施工管理・維持管理までを一貫して同じシステムで管理を行う手法が、一般的になりつつあります。

*1 AI:人工知能:Artificial Intelligenceの略
*2 IoT:モノのインターネット:Internet of Thingsの略
*3 ICT:情報通信技術:Information and Communication Technologyの略
*4 BIM:Building Information Modelingの略

 

<土木施工管理>

土木施工管理の対象は、公共インフラである道路・鉄道・空港・港湾・河川・海岸・上下水道などの土木構造物となり、それらの整備に関する多種多様な工事の施工管理を行います。
例えば、以下のように地域の人々の利便性や安全性の向上を図り、豊かな国土を構築する業務を担っています。
・道路工事の場合:橋梁工事、トンネル工事、擁壁工事、法面工事、舗装工事など
・河川工事の場合:堤防工事、ダム工事、水門工事など
・海岸工事の場合:防潮堤工事、護岸工事など

土木工事現場においても、最近はAIやIoT、ICTなどを活用しながら業務の効率化を図る動きとなっています。
また、CIM*5といわれる3次元立体モデルを活用し、設計管理・施工管理・維持管理までを一貫して同じシステムで管理を行う手法が、一般的になりつつあります。

*5 CIM:Construction Information Modelingの略

 

<設備施工管理>

建築物には、電気設備・ガス設備・給排水設備・空調設備などが必要となります。
施主の要望や立地に最適となる設備を選定し、設備ごとのメーカーや専門工事会社と協議を行った上で、工程管理や品質管理などを行います。
設備工事完了後も定期的にメンテナンスを行い、建築物を利用する人々が快適に安心して生活や業務を行える環境の提供を目指します。

 

設計

施主の要望を、様々な技術とアイデアにより図面に反映させていく業務が、設計の業務内容となります。
設計の種類としては主に、意匠設計・構造設計・設備設計に分類されます。

<意匠設計>

意匠設計は、建築物などにおいて構造・施工・維持管理・工事価格などに配慮しながらデザインをする業務です。外観・室内空間・間取りなど、建築物を利用する人の利便性・快適性・安全性などを考慮して細部まで詳細に決めます。
よく考え抜かれた意匠設計は、施工性も良く工期短縮にもつながり、技術やデザイン、工事金額のバランスが良い建築物を創造します。

 

<構造設計>

構造設計は、建築物・土木構造物がそれ自体の自重や地震・風力などの外力に対して、倒壊・損傷しないように建材などの数量を算出し、図面・計算書に反映していく業務です。
建築基準法や道路構造令などの各種法令に準拠した設計を行い、安全・安心を反映させる設計となります。

 

<設備設計>

設備設計は、建築物の利用者が快適に生活や業務を行えるように、電気設備・ガス設備・給排水設備・空調設備などが適正に配置されるよう計画する業務です。
建築物には、エネルギーを最適化することのできる設備設計が重要となります。

 

営業

建設業における営業は、官公庁や民間企業といった施主の多様なニーズに応えるべく、自社技術を提案・説明しながら工事の受注につなげる業務を担います。
また、自社の各部門とのコミュニケーションを取り、施主のニーズを反映させ、建築物や土木構造物などの完成を工事現場外にて後方支援する役割も担っています。

 

技術開発

建設労働者の高齢化問題や就労者減少問題などに対応するべく、AI、IoT、ICTなどの発展により、以下などの技術開発や導入が進み、業務改善・迅速化に貢献しています。
・ドローンによる高所点検:ビル・橋梁などの高所部分の点検・写真撮影など
・リモート建機運転:ショベルカー・ダンプカーなど
・作業・運搬ロボット:溶接ロボット・建材運搬ロボットなど
・ペーパーレス化を図ったタブレットの利用:図面などの必要書類をタブレット上にて閲覧

技術開発は、これらの最新技術情報の収集や開発、導入を図る業務がメインとなります。

 

事務管理

建設業の事務管理の業務は、会社運営に伴う経理や人事・総務・法務など、工事以外の事務的業務がメインとなります。
設計や営業、その他の部門全てと連携を取る必要があるため、コミュニケーション力は必須と言えるでしょう。
また、事務管理は本社以外に支社・工事現場にも必要な職種であるため、それぞれの職場には必ずと言っていいほど配置されています。

 

情報システム

建設業における情報システムは、会社システムの管理や運用、IT機器などの管理業務がメインとなります。
また、近年DX(デジタル・トランスフォーメーション)が叫ばれる中、IT機器などの活用により会社全体の業務効率化を図るという重要な業務も担っています。

 

建設業全体の離職率

監理技術者や主任技術者は、物件規模によって「専任」が義務付けられていました。
その条件とは、「公共性のある施設」、「工作物または多数の者が利用する施設」「工作物に関する重要な建設工事」のいずれかにおいて工事一件の請負金額が3,500万円(建築一式工事の場合は7,000万円)以上の場合であり、当該工事に設置される監理技術者(又は主任技術者)は、他工事の兼務を禁止されていました。
つまり上記金額を超える監理技術者になると、自身が担当する現場以外の工事には関われないため、多くの企業では深刻な人手不足問題を抱えていました。
とくにゼネコンをはじめとする大手企業では請負金額が規定値より超過する物件が多いため、監理技術者の数は非常に重要となっています。
最近では従業員の離職率が上昇しており、監理技術者が不足する企業が増加していたため、現状を少しでもよくするためには現段階で従事している管理者でも対応できる「仕組み」が必要だったのです。

 

常駐義務の緩和

国土交通省は、高校卒業者と大学卒業者における平成26年~平成28年の3年間における入社1~3年目の離職者の割合を公表しています。
データによると、建設業全体の離職率は他産業よりも高くなっていることが分かります。年々改善されてはいますが、就職1年目の離職率の割合が特に高くなっています。

高校卒業者の場合

平成26年~平成28年における高校卒業者の離職者の割合を下表にまとめます。

産業 離職タイミング 平成26年
高校卒業者
平成27年
高校卒業者
平成28年
高校卒業者
建設業 1年目の離職者 24.5% 22.9% 21.4%
2年目の離職者 13.8% 13.5%
3年目の離職者 9.4%
就労者 52.3% 63.5% 78.6%
製造業 1年目の離職者 12.4% 11.6% 11.2%
2年目の離職者 8.8% 8.3%
3年目の離職者 7.7%
就労者 71.1% 80.1% 88.8%
全産業 1年目の離職者 19.3% 18.0% 17.2%
2年目の離職者 12.1% 11.6%
3年目の離職者 9.4%
就労者 59.2% 70.3% 82.8%
※参照元:「建設業を取り巻く現状について」国土交通省

 
平成26年の高校卒業者の場合、入社後1~3年目までに離職した割合の合計は47.7%となり、3年間に約半数が離職したことになります。高校卒業者の場合、工事現場での肉体労働や職人としての訓練も行われるため、厳しい業務内容に耐えかねて離職率が上がると想定できます。
ただし、平成26年から平成28年までの1年目の離職者と2年目の離職者を追ってみるとわずかながら減少傾向にあるため、少しずつ改善されていることが分かります。

 

大学卒業者の場合

次に、平成26年~平成28年における大学卒業者の離職者の割合を下表にまとめます。

産業 離職タイミング 平成26年
大学卒業者
平成27年
大学卒業者
平成28年
大学卒業者
建設業 1年目の離職者 12.8% 12.2% 10.5%
2年目の離職者 9.9% 9.0%
3年目の離職者 7.7%
就労者 69.5% 78.8% 89.5%
製造業 1年目の離職者 6.5% 5.8% 5.5%
2年目の離職者 6.5% 6.4%
3年目の離職者 7.0%
就労者 80.0% 87.8% 94.5%
全産業 1年目の離職者 12.2% 11.8% 11.3%
2年目の離職者 10.6% 10.5%
3年目の離職者 9.4%
就労者 67.8% 77.7% 88.7%
※参照元:「建設業を取り巻く現状について」国土交通省

 
平成26年の大学卒業者の場合、入社後1~3年目までに離職した割合の合計は30.5%となり、3年間に約3割が離職したことになりますが、高校卒業者の場合と比較すると2割ほど離職率は減少していることが分かります。
平成26年から平成28年までの1年目の離職者と2年目の離職者を追ってみるとわずかながら減少傾向にあるため、こちらも少しずつ改善されていると言えるでしょう。

 

各職種の離職率

※参照元:「建設労働者を取り巻く状況について」厚生労働省

 
建設業界全体の離職率は、前述の表1・表2を見ても分かるように高い傾向にあり、その中でも建設業界の就業者498万人(平成29年時点)のうち66.4%を占める技能者(職人などの現場作業者)の離職率が高くなっています。
一方、建設業界における施工管理・設計・営業・事務管理など技能者以外の職種における離職率はどうなのでしょうか。
結果として、技能者以外の職種における離職率を明確に表した統計データはありませんでしたが、4つの要因により推測した結果、職種別に見ても建設業界の離職率は高いと想定できました。
4つの要因については以下が挙げられます。
要因1として、上記の「建設業全体の離職率」にて解説した内容に基づきます。
要因2として、「建設労働者を取り巻く状況について」(※参考資料のリンク付ける)において、建設業界における不足度合いの高い順に職種を記すると、専門・技術、技能工、販売、運輸・通信、事務、管理の順となります。

 
要因3として、「建設業を取り巻く現状について」によると、平成22年から平成29年までの技能者などの就業人口の推移に変化はありません。

建設業界内の職種 平成22年 平成29年
技能者 331万人 331万人
技術者 31万人 31万人
管理的職業・事務従事者 94万人 99万人
販売事業者等 29万人 28万人
その他 13万人 9万人
※参照元:「建設業を取り巻く現状について」国土交通省

 
要因4として、下記において解説している施工管理や設計士の離職率が5%~10%に留まっているという点です。
・1級施工管理技士:約5%前後
・2級施工管理技士:約10%前後

 
以上の要因1~4を総合的に鑑みて、施工管理や設計士、営業、事務管理などの職種は技能者(職人などの現場作業者)の離職率に比べると離職率が低いと推測できました。
各職種の離職率の傾向を以下にて解説いたします。

 

施工管理、設計士

施工管理や設計士は現場によって残業が多くなり、休日も規定通りに取れない場合が多い傾向にあるため、建設会社によっては離職率が高くなると言えます。

 

営業

営業については施主が誰かによって離職率は大きく異なります。
施主が官公庁や大企業などの法人の場合、残業は少なく休日も規定通りに確保できる場合が高いため、離職率は下がる傾向にあります。
しかし、施主が個人の場合、例えばマンション・アパートなどの土地活用が主軸の建設会社の営業は、残業が多く休日も規定通りに取れないことが多々あるため、離職率は非常に高くなりやすいのが現状です。

 

事務管理

事務管理については、一般的に残業は少なく休日も規定通りに確保できる傾向にあるため、他の職種と比較すると離職率は低いと言えるでしょう。

 

まとめ

以上、建設業の職種や建設業全体の離職率、各職種の離職率の概要について解説しました。
建設業界の約3分の2を占める技能者(職人などの現場作業者)の離職率は高い傾向にありましたが、施工管理者や設計士、営業、事務管理などの離職率は、技能者の離職率と比較するとそれほど高くないことが分かります。
また、工事現場において、劣悪な作業環境の中で労働を強いられる技能者が少なからず存在することは事実ですので、国土交通省が進める「i-Construction」により、3K問題や高齢化問題などを早急に改善し、建設業界全体の離職率の低下やイメージアップを図ることが重要と言えるでしょう。

SHARE