【建設業界へのAIの導入】人出不足解消か?仕事が無くなるのか?
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【建設業界へのAIの導入】人出不足解消か?仕事が無くなるのか?

2021年2月19日

AI(Artificial Intelligence:人工知能)の技術進化により、建設業界においても導入されるケースが多くなっています。その様な状況下において、国土交通省は「AIを活用した建設生産システムの高度化に関する研究」(※1)を公表しました。その概要については、下記で解説します。

また、建設業界へAIを導入することにより、人手不足が解消できるのか、もしくは、仕事が無くなるのかについて探ります。

 

建設業界へのAI導入の背景・課題と目的

建設業界におけるアプリ普及の背景には、主に4つの現状と3つの課題があります。それらを以下で解説していきます。

 

建設業界の背景・課題

人口減少や少子高齢化により、建設業界の人手不足は深刻化しています。そのため、「建設労働者の給与確保」や「週休2日の実現」などの働き方改革の推進は、緊急の課題となっています。

そこで国土交通省は、平成28年に建設現場の生産性向上を図る「i-Construction」を公表しました。
「i-Construction」は、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)の活用による生産性向上が大きな柱となっており、ICTにより建設現場から得られるビッグデータを効果的に活用する必要があります。そのためには、近年の技術開発が著しいAIやIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の活用が必要不可欠となっています。
また、建設現場の喫緊の課題である熟練技能者の経験による技・ノウハウ・勘の伝承を効果的に実施するため、確実に建設工事の品質を確保する観点から、AIやIoTの効果的な活用方策の研究が必要と言えるでしょう。
さらに、ビッグデータを管理・連携するために、時空間的なデータ管理を整えた3次元情報基盤の構築が不可欠となります。

 

AI導入の3つの目的

建設業界の背景・課題を受けて、AI導入の目的は、以下の3点となります。
①働き方改革の実現
②建設現場の2割の生産性向上の実現
③生産性向上に不可欠な民間投資を誘発

 

これらの目的は、IoTなどを利用して施工現場から収集されるビッグデータにおいて、AIを利用してビッグデータを解析し、調達、施工管理などの高度化の実現を図るものです。
3つの目的をさらに詳しく解説すると下表の通りになります。

項目 内容
働き方改革の実現
  • 施工状況に則した適切な歩掛を利用した積算により、賃金の引上げを促進
  • 適切な工期設定により週休2日の確保を実現
建設現場の2割の生産性向上の実現
  • 習熟すべき操作要素の抽出により、技能者の育成促進を実現
  • 構造物の3次元モデルの活用により、維持管理業務の高度化・効率化を促進
生産性向上に不可欠な民間投資を誘発
  • ICT建機データが誰でも使用できる環境の創出により、民間の現場改善投資を誘発
  • 生産性の高い会社の取組みを評価することにより、労働生産性向上の民間投資を誘発

 

建設業界へのAI導入の課題と効果

AI導入の3つの目的を達成するにあたり、立ちはだかる課題があります。その課題を克服することにより、下記の効果を得ることができます。

AI導入の4つの課題

建設業界へのAI導入にあたり、課題は以下の4点となります。
①業務へのAI適用における課題
②調達の高度化における課題
③施工管理の高度化における課題
④情報連携の高度化における課題

4つの課題を詳しく解説すると下表の通りになります。

課題項目 課題内容
業務へのAI運用における課題
  • AI活用により、生産性向上ができる業務プロセスの把握ができていない
  • AI活用前提となるビッグデータの収集/活用の仕組みが不整備
調達の高度化における課題
  • 適正な工期設定は、週休2日などの休暇確保の上で必要不可欠
  • 施工状況に応じた歩掛を利用した積算は、適正な賃金水準の確保に必要不可欠
施工管理の高度化における課題
  • 熟練技能者の高齢化に伴う離職により、建設現場の生産性低下が課題
  • ICT施工で発生している多くのセンサー情報・施工情報が工事の生産性向上に活用されていない
情報連携の高度化における課題
  • 施工中に収集・蓄積されるビッグデータを管理・連携する仕組みが未確立
  • CIM(Construction Information Modeling:建設情報モデル)を利用した情報連携の仕組みが構築されつつある。
    しかし、2次元CADで設計された既存構造物のCIMモデル(3次元モデル+属性情報)構築には追加コストが発生

 
また、下図はAI導入の4つの課題を克服するための技術研究開発の全体像です。

※参照元:「AIを活用した建設生産システムの高度化に関する研究」国土交通省

 

AI導入の課題を克服後に期待される効果

上記の「AI導入の4つの課題」を克服した後に期待される効果を下表にまとめます。

課題項目 期待される効果内容
業務へのAI適用
  1. 建設生産システム全体の業務プロセスの生産性向上
  2. 建設生産プロセスにおけるビッグデータの活用による建設産業のイノベーション創出
調達の高度化
  1. 適正な賃金水準確保に必要不可欠な、様々な施工状況に応じた歩掛を利用した積算が可能
  2. 週休2日などの休暇確保に必要不可欠な、適切な工期設定が多くの公共工事で可能
  3. 生産性の高い企業の実態を評価することにより、生産性向上に必要な民間投資の誘発を期待可能
施工管理の高度化
  1. 技能者の育成促進を習熟すべき操作要素の抽出により、実現可能
  2. ICT建機データが誰でも使用できる環境創出により、民間の現場改善投資を誘発
情報連携の高度化
  1. 既存構造物のメンテナンスに係るCIMモデル構築コストの低減
  2. 最新のIoT技術の現場導入を促進する環境の実現
  3. 補修・補強などの工事における施工条件や施工方法などの検討、不具合部分の発見などに活用
  4. 将来的には、防災・減災シュミレーションなどの基盤情報として活用

 

また、下表は「施工管理の高度化」、「情報連携の高度化」の課題を克服後に期待される効果のイメージです。

施工管理の高度化 情報連携の高度化

 

建設業界へのAI導入により人手不足は解消できるか?

AI導入によるメリットは主に以下などがあります。

AI導入によるメリット
単純作業の自動化が可能

人材不足の解消につながる
安全性を向上させるための手段として活用

働きやすい環境の実現につながる
現場作業をAIやロボットに任せる使い方が可能

現場以外の仕事の増加につながる
女性従業員の増加のきっかけにつながる

 
以下で、建設会社がAIを活用して効果を上げている事例を3つご紹介します。

【AI活用事例1】
鹿島建設は、溶接作業においてAI・IoTを活用しています。これまで人手では不可能であった上向き溶接をロボットで代替することにより可能としました。その効果は、溶接の品質向上、性能向上、工程短縮、負担軽減に繋がりました。

【AI活用事例2】
竹中工務店は、3つのAI「リサーチAI」、「構造設計AI」、「部材設計AI」を開発しました。その効果は、構造設計の関連作業を約7割削減することに繋がりました。

【AI活用事例3】
フジタは、AIを搭載した無人の油圧ショベルにより、機体前方の地面を掘削する単純作業を可能にしました。その効果は、単純作業だけでも土工の約8割を賄うことができ、工程短縮、負担軽減に繋がりました。今後は、掘削するだけの単純作業だけでなく、あらかじめ設定したエリアを一定の深さまで掘り下げ、土砂をダンプに積み込みできるようになるとのことです。

 

建設業界へのAI導入により、仕事が無くなるのか?

AI導入によるデメリットは主に以下などがあります。

AI導入によるデメリット
単純作業の大半が機械作業に置き換わる

単純労働者の仕事が無くなる
熟練技能者の技・ノウハウ・勘などがAIにより学習・蓄積され、熟練技能者でなくても困難な建設工事に対処できる

熟練技能者が徐々に不要となることにつながる
スマホやタブレット持参により、建設アプリを操作しながら作業することを課される

建設アプリの習得が必須となり、できなければ仕事ができなくなる

 
しかし、現場での気づきや発見による作業や仕組みの変更はAIにはできません。細かな配慮をしながら作業途上で得られる新たな情報については、AIによる蓄積情報の中にも無いものがあります。
そのため建設労働者に関しては、そのような領域で勝る必要があります。

 

まとめ

以上、建設業界へのAI導入の背景・課題や課題・目的、人手不足は解消されるのか、もしくは仕事が無くなるのかについて解説しました。
AIが得意とする分野は、膨大なデータを分析し、理論的に結論を導き出し、予測する作業となります。逆に苦手な分野は、無から有を生じる創造力(クリエイティビティ)です。
建設現場に従事する方々にとって、AIは現場に必要な様々な情報やノウハウを提供してくれる便利なツールであり、人手不足解消に大きく貢献すると言えます。
一方、単純作業などはAIによる機械学習によりIoTを通して機械に代替され、仕事の無人化はどんどん加速するでしょう。
以上から、建設現場においてAIは人手不足解消と仕事の無人化の両方に効果を発揮するツールとなります。
今後は建設現場での業務上の新たな情報をAIにフィードバックしながら、必要な情報をAIから供給してもらうという工事の進め方が主流になります。AIを上手に活用しながら建設工事を進められるためにも、AIの知識を養われることをおすすめいたします。

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